WeROCK 087付録CDインタヴュー〜FILL IT UP編

2月2日にセカンド・アルバム『HEADS OR TAILS』をリリースした、男女混成バンドのフィル・イット・アップ。
今回のオムニバスCDには、そのアルバムから「REALIZE」で参加してくれた。
4人がその最新作について語ってくれた。

アルバム『HEADS OR TAILS』から「PAYBACK」

「必死に食い下がる思いで、違う楽曲を作った

——フル・アルバムとしては4年2ヵ月ぶりとなりますが、この間、バンド内での音楽的やその他の変化はありましたか?
HIRO:音楽的な変化という部分では、とくにはないとは思うんですが、1枚目の頃よりもバンド内での意見交換などは、だいぶスムーズにはなってきたと思ってます。例えば曲作りにおいても、メンバーが理解するスピードが上がったおかげで、ストレスも幾分減ったし(笑)。すべてが順調ってわけではないけど、4年の間にいろいろと学べたことで、少しは成長できたのかなとは思っていますね。
JUN
:この4年間ツアーやってきて、多種多様なジャンルの方達とやらせて頂いていく中で楽しむってことをを覚えたかもしれないですね。前は自分のことでいっぱいいっぱいでしたが、少しだけまわりを見られるようにはなってきて。
——ファーストをリリースして、ライヴを重ねてきて、確実なバンドの進化が感じられますよね?
CHOMO:ありがとうございます。そう言って頂けるとうれしいんですが、自分達ではわからないですよ。
NENE:自分達では意識したことはないのですが、たくさんライヴをやってきた中で、少しでも上達したと感じてもらえるのは本当にうれしいですね。
HIRO:自分達なりに、できることをただただ一生懸命にやってきただけなので、それがバンドの成長につながったと思って頂けたら、ありがたいです。
JUN:本当に、5年間、ただ必死でやってきましたから。
——4年空いてしまった、あるいは空けたのはなぜですか? 曲は、そうとう出揃っていたのではないかと。
HIRO:ただたんに、レコーディングに時間が掛かったのもあるんですけど、自分達はライヴをやりながら曲を練っていくタイプなんですよ。新曲を演奏してはお客さんの反応などを見ながら、さらに作り込んでいくという工程を繰り返してました。で、結果的に4年かかってしまったのかもしれません。曲によっては、サビを3回も作り直したりもしましたし。
——とすると、全曲、ライヴでやってきた曲ですか?
JUN:はい(笑)。インストを除く全曲は、ライヴでやって作り込んできた曲です。
CHOMO:お客さんも曲名だけがわからないと言ってました(笑)。
NENE:コーラスの歌詞なんかは、ライヴ・ハウスで聞かれた時に、教えて覚えてもらってます。みなさん、すでに一緒に歌ってくださってますね。
CHOMO:いちおうタイトル・コールもするので、何となく覚えてくださってる感じなのですかね?
HIRO:たぶん自分もそうなのですが、一緒に騒げればOKなのかと。
JUN:なので、早く盤にしたかったというのはあるんですが、レコーディングをすればするほど、あれこれ試したくもなり曲もドンドン変わっていきまして(笑)。
HIRO:そうそう。時には、やればやるほど答えがわからなくなり、堂々巡りをする毎日でまったく進まない時もあって焦る時もあったけど、妥協もあまりしたくはなかったので、納得できるところまでガンバろうって感じでやってたよね。
——実際、どれぐらいレコーディング期間はあったんですか?
CHOMO:途中、コロナ禍の問題なんかも出てきて、予定変更を余儀なくされたりとかもあり、間もだいぶ空いた時期もありますので足掛け2年半ぐらいはかかったと思います。
HIRO:コロナ禍のおかげで時間ができてしまい、どうしても時間があると悪いクセが出てきて、曲をイジリ始めたり悩み始めたりしてしまいます。
NENE:その間はスタジオでも、作っては直しての繰り返しでした。
JUN:イヤになる時もいっぱいあったよね。
CHOMO:HIROさんにメチャクチャ怒られたりすることもかなりあって(笑)。課題をこなせなくて、“帰れ!”とか“やり直してこい!”とかは、全員言われてます。
JUN:けっこうボロッカスに言われるんで、へこみますよ(笑)。
NENE:怒ると怖いんです。
——とのことですが、リーダー(笑)?
HIRO:えっ!? どこのバンドも同じではないでしょうか(笑)。やっぱりズルをする時は怒りますよ。メンバーとしては歳の差もありますが、対等でいてほしいので、演奏も制作も裏方作業も、できるだけ同じようにやってほしかったりしますからね。
——ズルとは(笑)?
HIRO:バンド内で割り当てられてる仕事をやってなかったり、演奏だと明らかに練習不足がわかる時などは怒ってしまいます(笑)。まあ、どのバンドも似たり寄ったりじゃあないでしょうか(笑)。
——アレンジをし直したということだけど、先に録るであろうドラムも、あとでレコーディングし直しとかもあったんでしょうか!?
JUN:ぜんぜん、ありました。3分の1ぐらいは録り直しましたんじゃないですかね。「OVER THE HILLS〜」、「PAYBACK」、「SHOT」なんかはOKがもらえずに、後日、録り直しましたから。
CHOMO:ヴォーカルも何曲か録り直しましたし。たぶん、かなりの部分を録り直したり、録ってからヴォーカル・ラインを変更したりもありました。
HIRO:ウマいヘタとかよりも、何かこなしてる感じの演奏だったり、流した感じがするとOKは出せないですね。曲の世界観なんかも伝わってこないとダメですし、全部ではないけど、必死な感じがないと首を縦には振れないんです。
——話は戻りますが、今回、前作より、すごくアグレッシヴでヘヴィな曲も多いと思ったんですね?
HIRO:そのへんはすごく意識したところなので、そう感じて頂けると本当にうれしいです。前作がミディアム・テンポの曲が多かったので、やはりライヴでのセット・リストなどを考えると、勢いの付けやすいアップ・テンポの曲をもっと増やさなきゃいけないなって思いながら曲を書いた場合もあるんです。ミディアム・テンポの楽曲に対しては、どうすれば今までよりグルーヴを出せるかとか、ヘヴィさを強調できるのかとかはすごく考えました。
JUN:今までよりも、技術的にもサウンド的にも要求されることが多くなったんですが、その中でもヘヴィさについてはHIROさんと何度もスタジオに入って試行錯誤してきましたよね。
CHOMO:曲調が今までとは違ってきたことにより、前作ではなかったシャウトなどを要求されることが多くなったし。
NENE:ベース・ラインもウネる感じをすごく要求されました。
——すべてにおいて、確実にハードルが上がってたと? リーダー自身は、自分のギター・プレイに対して、どうしようと思っていましたか?
HIRO:自分としては、やれることを確実にやっていくって感じでした。個人的にメンバーのレコーディングの合間ぐらいしか自分の録り時間はなかったので、詰めきれない部分もあったのですが、新しいことなんかにも挑戦しつつ、でき得る限りのことをやっていこうと思ってました。「CROW」のソロなんかは、今までにやったことがないメロディックな感じですし、浮遊感みたいなものを意識して組み立ててますね。「OVER THE HILLS〜」では12弦を使ったりしてます。「LIVE MY LIFE」ではほんの少しなのですが、スライド・ギターを入れたりもして。
——激怒りが多かったと言ってましたが、各メンバーの成長はどう感じていますか?
HIRO:うーん……おのおの少しだけ引き出しが増えた気はします。実際、1曲だけ前作を出す前からあった曲もあるのですが、当時はまだウマく演奏ができなくて収録を断念したのです。今回は何とかその曲を収録することができたので、そういった部分では成長できたと思います。
JUN:自分は以前のアルバムの時と比べ、今回のアルバム曲では作曲する時にDTMでドラムを打ち込んだりそれを他のパートと重ねてみたりして、自分自身が第三者的視点でそれをメンバーと共有して話し合ったりしました。そうすることでドラム・フレーズに対する理解も深まりましたし、より他のパートとの絡みを意識するようになったと思います。成長と言っていいかわかりませんが。
CHOMO:今回のアルバムでは、いろんなカラーの曲があるので、自分としては激しくシャウトして歌うところもあれば柔らかいトーンで歌っていたり、ファーストの時はなかなかできなかった部分に挑戦しています。曲ごとの歌い分けを聴いてもらえたらうれしいですね。
NENE:私は、ベースだけでなく、コーラスでも貢献できたと思ってます。
——ファースト・アルバムの時は、妖艶で広がり感のある曲が印象的でしたが、今回は「PAYBACK」などラウドでパンキッシュなナンバーも熱いですよね?
HIRO:前作では楽曲やアーティスト写真なんかも含めて、何か比較的キレイ目な感じで行こうかなって思ってたんですよ。ただ、しだいに普段の自分達って言うか、より素の部分を出していきたいと思うようになり、バンド自体がだんだんとラフな感じになって、それに伴い楽曲も変化していきましたね。
でも、それは、やっぱりライヴを重ねてきて、たくさん強力なバンドと共演させて頂いたり、間近で観せて頂いた中で、このままだと爪痕を残すことなんて絶対にできないし、覚えてももらえない、埋もれていくだけだよなって、ひしひしと感じてたからなんですね。だだ、必死に食い下がる思いで、今までとは違う楽曲も作らなきゃいけないとって思った部分もすごく大きくて、こういった楽曲が自然と増えてきたのかなとは思います。
——と言いつつ、今回のWeROCKのオムニバスCDへ提供して頂いた「REALIZE」は、ファーストの匂いも感じる楽曲ですよね? この曲を選んだ理由は?
HIRO:この曲はかなりキャッチーなので、きっと他のバンドさんはヘヴィな曲を持ってくるんじゃないかな? って思って、あえて違う方向性の曲を選んでみました(笑)。
NENE:私は、この曲がアルバム中で自分的にはいちばん好きな曲なんですよ(笑)。
CHOMO:この曲は、ある物語から影響を受け、自分の中の大切なものに対しての“気づき”をテーマにしています。当たり前に感じていた鮮やかな景色は、大切な誰かがいなくなることで一瞬にして色を失ってしまう。大切な誰かの「光」を感じることで生きていたんだと気づく、だから今度は胸の中に残るその“光”を力に変えて生きていく。というような内容です。切ない想いだけではなく、光を絶やさずに前を向いていけるようにというメッセージを込めています。クリーンなアルペジオからサビへ繋がっていく部分で、歌詞にあるように静かな世界から光へ向かっていくような疾走感を感じられるところ、そして力強くも切ないギター・ソロも聴きどころかと思います。
——英詞にしてる理由はありますか?
CHOMO:英詞のほうがウチの曲には乗せやすい気がしてるんです。たぶんリーダーが洋楽ばかり聴いてきたので、リーダーが作った曲だと必然的に英詞のほうがハマりやすい気がしてます。実際、翻訳をお願いしたり、覚えるのもたいへんですが、やはり英語のほうがしっくりきますね。
——この楽曲は、バンドにとって、どういう位置づけの曲になりますか?
HIRO:すごくキャッチーな曲なので、他の曲と比べるとかなり浮いた感じもしないでもないんですね。でも、逆にガラッと雰囲気を変えたい時なんかに持っていきたい曲です。
——さて、そんなアルバムですが、どういうロック・ファンに聴いてほしいと思ってますか?
JUN:ファースト・アルバムを聴いてくれた方には、また新しいフィル・イット・アップの一面が見れるかと思うのでぜひ聴いて頂きたいですし、“激しいのも好き! でもキャッチーなのも好き!”っていう、欲張りさんにも聴いてもらいたいです。
CHOMO:ヴァラエティに富んだ聴き応えのある1枚になっていると思いますので、今時の曲が好きな若者から往年のロック・ファンまで、フィル・イット・アップの楽曲を聴いたことがない人にも偏見なく聴いてみてほしいなと思います。
HIRO:自分がすごくミーハーで影響を受けやすい人間なので、あれもこれもって感じで境界線なくいろいろな方に聴いてもらえたらうれしいです。

▲左より、HIRO(g)、CHOMO(vo)、NENE(b)、JUN(ds)

■FILL IT UP 公式サイト■
https://www.fillitup-official.com/

アルバム『HEADS OR TAILS』
SHOTGUN records
SGCD-1013
¥2,750(税込) 2月2日
①PAYBACK
②SHOT
③CROW
④REALIZE
⑤EVERLASTING
⑥IVY
⑦OVER THE HILLS AND FAR AWAY
⑧THE OTHER SIDE
⑨KICK OVER THE TRACES
⑩LIVE MY LIFE
⑪THE OTHER SIDE -REMIX-

ヴォーカルとベーシストが女子という静岡を拠点に活動するフィル・イット・アップのセカンド・アルバム。ファースト時よりもアグレッシヴさが増し、よりヘヴィな印象の作品で飛躍的に進化したサウンドとなっている。

■ライヴ予定■
4月10日=高崎トラスト55
4月30日=上野音横丁