メタル・ギター界のオールラウンダー、Dinkyを検証!

メタル・ギターを代表するブランドのシャーベルからディンキーが登場した。ディンキーと言えば、ジャクソンからさまざまなモデルが発売されているが、今回のシャーベルのディンキーはその原点とも言えるオールラウンダー・モデルだ。そこでこの“オールラウンド”ということに焦点を当てて、その実力を探ってみた。
※WeROCK 066の掲載記事より。

■ディンキーとは?■

今回、シャーベルからディンキーが発表されたことに“オリジナルのディンキーが復活?”と思ったギタリストがいるかもしれない。なぜなら、ディンキーは現在、ジャクソンから発表されているモデルだが、もともとはシャーベルから発表されたもの。当時のハード・ロック/ヘヴィ・メタル・ムーヴメントを受け、スタンダードなSTタイプのボディをやや小振りにし、またフロイド・ローズを搭載するなど、メタル向きに発展させたモデルがシャーベルのディンキーだった。その後、このディンキーをスルーネックにするなど、ジャクソンならではの革新性を盛り込んで開発されたのがソロイスト。現在では、ディンキーとソロイストともに、ジャクソンからの発売となっていて(下の写真は現行のジャクソンのディンキー、DK2QM)、ランディ・ローズVやキングV、ウォーリアーなどの変形ギターとともに、今も多くのギタリストが手にするモデルとなっている。そのディンキーがシャーベルから再び発売されることになったのだが、ジャクソンとシャーベルが兄弟ブランドだからと言って、同じモデル名でも同じスペックであるわけがない。

 

▲ジャクソンのディンキー(DK2QM)

上のジャクソンのディンキーと下のシャーベルのディンキーを見比べてもらうとわかるように、まずヘッド・ストックの形が異なる。ジャクソンはコンコルド・ヘッド、シャーベルはいわゆるSTタイプのヘッド。ボディ形状もジャクソンの現在のディンキーは1弦側カッタウェイ部のボディ・トップがなめらかにカットされているが、シャーベルのディンキーは表側のカットがない。また、ジャクソンのディンキーには、7弦や8弦、ノン・トレモロのモデルなど、さまざまなヴァリエーションが存在していることも付け加えておこう。

 

▲シャーベルのディンキー(Dinky DK24 HH FR M)

ただ、ディンキーの源流は、前述したようにSTタイプをヘヴィ・メタル/ハード・ロック向けに発展したモデルということ。今回、シャーベルから発表されるディンキーも、オールラウンドに使えるギターということは間違いない。とくにこのニュー・モデルはシャーベルのルーツを彷彿とさせつつ、同社ならではのコンパウンド・ラジアス指板、No-Loadトーン・コントロールなど、現代のシーンにマッチした1本に仕上がっている。その実力を紹介していこう。

■新ディンキーは3種類■

まず、シャーベルから発売された3種類のディンキーを紹介しよう。

PRO-MOD DK24 HH FR M QM ¥210,000+税

〈仕様〉 ●ボディ:キルテッド・メイプル・トップ+アルダー・バック ●ネック:メイプル ●指板:メイプル ●ピックアップ:セイモア・ダンカン Jazz SH2N(フロント)、Full Shred SH-10B(リア) ●コントロール:ヴォリューム、トーン、5ウェイ・ピックアップ・セレクター ●ブリッジ:フロイド・ローズ・ダブル・ロッキング・トレモロ ●カラー:ルート・ビア・バースト(写真)、トランスペアレント・パープル・バースト

PRO-MOD DK24 HH FR M ¥190,000+税

〈仕様〉 ●ボディ:アルダー ●ネック:メイプル ●指板:メイプル ●ピックアップ:セイモア・ダンカン Jazz SH2N(フロント)、Full Shred SH-10B(リア) ●コントロール:ヴォリューム、トーン、5ウェイ・ピックアップ・セレクター ●ブリッジ:フロイド・ローズ・ダブル・ロッキング・トレモロ ●カラー:スノー・ホワイト(写真)、サテン・ブラック

PRO-MOD DK24 HH FR E OKOUME ¥190,000+税

〈仕様〉 ●ボディ:オクメ ●ネック:メイプル ●指板:エボニー ●ピックアップ:セイモア・ダンカン Jazz SH2N(フロント)、Full Shred SH-10B(リア) ●コントロール:ヴォリューム、トーン、5ウェイ・ピックアップ・セレクター ●ブリッジ:フロイド・ローズ・ダブル・ロッキング・トレモロ ●カラー:サテン

■オールラウンダー・ギターとしてのポイントに迫る■

ネック・シェイプ & 24フレットのコンパウンド・ラジアス指板

シャーベル/ジャクソンならではのコンパウンド・ラジアス指板。これは、指板のRがハイ・ポジションにいくにしたがってフラットになっており、抜群のフィンガリングを生み出してくれるシステムだ。このディンキーも、ネック・シェイプはガッチリとしたタイプでありつつ、コンパウンド・ラジアスのおかげか、まったく弾きにくさは感じない。そのRのぐあいだが、1フレットではなだらかな曲線(そんなにキツくは感じない)、9フレットあたりからフラットになっているのがわかる。となると、たしかにハイ・ポジションが弾きやすいのだ。フィンガリングがしやすくなるので、大げさに言うと、いつもよりより余計に左手が動いてくれるような気がしてしまう。さらに24フレット仕様もあいまって、ハイ・ポジションの弾きやすさは抜群。おっと、よく見たら、ジョイント部もカットされていて、弾きやすさ満載!

オールラウンド度:★★★
(※以下、各項目でのオールラウンド度は★3つで満点です)

ロー・フレットでは丸みがあり、ハイ・フレットに行くにしたがいフラットになっているコンパウンド・ラジアス指板

コンパウンド・ラジアス+24フレット+ネック・エンドの加工により、ハイ・ポジションの弾きやすさはバッチリ

ピックアップにはセイモア・ダンカンを採用。そして、No-Loadトーンとは?

ピックアップの特性なのか、ボディ材とのマッチングなのかはわからないが、ものすごくブライトなトーンを出してくれる。各弦の響きがわかりやすく、たとえばオーバードライブさせてコードを弾いても弦の分離がいい。6弦すべてを鳴らしても、1本1本の音が伝わってくる。倍音成分も豊かで、音の立ち上がりが速い。コンプ感がないのがダンカンならではで、ピッキングの強弱にストレートに反応してくれるのだ。そのため低音弦を弾いた時のゴリっとした感じが出つつ、どこかの帯域が出過ぎることなくフラットに鳴ってくれる印象だ。そして、No-Loadトーン。みなさんは、ほぼ、トーンをフルで使うことが多いと思うが、これはおもしろい。クリーン・トーンで試してみると、フルにした瞬間にクリアになるのがわかる。いきなりヌケてくれる。全ギターのトーンを、このシステムにしてほしいと思ったぞ。

オールラウンド度:★★★

コンプレッションがかかりすぎず、ピッキングに素直に反応してくれるのは、セイモア・ダンカンならでは!

フル・アップすると、バイパス状態になるNo-Loadトーン・コントロールを採用している

ブリッジはフロイド・ローズ

ザグリもあり、ブリッジ自体、落とし込まれているので、右手がスムースに反応してくれる。アーム・アップ用のザグリかと思いきや、ピッキングのやりやすさにもつながっているのだ。ゴールド・フィニッシュは高級感ある!

オールラウンド度:★★★

このように、深めのキャパシティを取ったフロイド・ローズ用ザグリ。右手の弾きやすさにもつながっている

ジャック・プレートの位置にも注目

ジャックの位置って、じつはいろいろと問題だったりする。STタイプだとアームが引っ掛かったり、かといって下側に付けるとスタンドなしで置いた時にプラグに負担をかけてしまう。そんな時にグッドな位置かもしれない。

オールラウンド度:★★★

プレイヤビリティの面を考慮して、ジャック・プレートは、ボディ裏のカットされた部分に設けられている

ボディ材の違いによるキャラクターの差を検証!

ここまで、メイプル・トップ+アルダー・バックのDK24 HH FR M QMを試奏してきたが、同時に発売されるDK24 HH FR E OKOUMEもチェックしてみた。こちらは、ボディにオクメ材と呼ばれる木材が使用されていて、指板もエボニーという違いがある。オクメとは、あまりなじみのない木材だが、はたしてアルダー・ボディのモデルとは、どんな違いがあるのだろうか?
まず、弾いてみた時の第一印象は、ボディ材の違いなのか、指板の違いなのかはわからないが、メイプル・トップ+アルダー・バックのモデル(DK24 HH FR M QM)よりも中高域にヌケを感じつつ、ギュッと圧縮したサウンドが出せたということ。メイプル・トップ+アルダー・バックのモデルはフラットで、1弦1弦がブライトな印象だったのに対し、アルダー・ボディ(DK24 HH FR M)は高域にアルダーならではのヌケがある。そして、オクメはもっとひと塊になって出てくれる感じなのだ。それは指板がエボニーであるということによる影響なのかもしれない。
ピックアップやコントロール、またボディ・シェイプやネック・シェイプなどの仕様は3モデル共通となっているが、サウンドにそれぞれのよさがあって、どれを選ぶのかは悩みどころかもしれない。うーん、どうしよう(笑)。

オールラウンド度:★★★

オクメという、あまり聞き慣れない木材を使ったディンキー。メイプル・トップ+アルダー・バックのモデルと比べてみると、中高域がヌケてくる印象だ

DK24 HH FR Mはボディがアルダーである以外、ピックアップやコントロール類、ブリッジなどのおもな仕様は、DK24 HH FR M QMと共通している

兄弟モデルのようなディンキーとスタイル1

シャーベルに詳しい方なら、同ブランドからスタンダードなシェイプのモデルとして、SAN DIMAS(サン・ディマス)とSO-CAL(ソー・カル)と呼ばれるモデルの中に“スタイル1 HH”と呼ばれるギターがラインナップしていることをご存知だろう(写真はソー・カルのスタイル1 HH)。シャーベルが誕生した当時のデザインを踏襲したモデルで、一見したところはディンキーと似ている。その違いを紹介しよう。
まずは、フレット数。ディンキーが24フレット仕様であることに対して、スタイル1は22フレット仕様。また、ピックアップ・セレクターがディンキーは5ウェイ、スタイル1は3ウェイとなっている。ただ、スタイル1はヴォリューム・ノブのプッシュ/プルによりコイル・タップによるサウンド・ヴァリエーションを獲得できる。なお、同じスタイル1でも、サン・ディマスとソー・カルとでピックアップが異なる他、ソー・カルはピックガードが付くというデザイン上での大きな差がある。

■PRO-MODシリーズのサッチェル(スティール・パンサー)・モデルもチェック■

メタル・ギターなデザインに秘められたオールラウンダーとしての実力

 

SATCHEL SIGNATURE PRO-MOD-DK ¥275,000+税

〈仕様〉 ●ボディ:アルダー ●ネック:メイプル ●指板:メイプル ●ピックアップ:フィッシュマン フルエンス・クラシック PRF-CHB-NB1(フロント)、フルエンス・クラシック PRF-BB1(リア) ●コントロール:ヴォリューム(プッシュ/プル・ヴォイス・アクティヴェーション)、3ウェイ・ピックアップ・セレクター ●ブリッジ:フロイド・ローズ FRT-2000 ダブル・ロッキング・トレモロ ●カラー:イエロー・ベンガル

音を出したとたんに、80sメタル到来! カラッとしたトーンは、まさに、あの時代のギター・サウンドを思い出させてくれる。おもしろいのは、ヴォリューム・ノブを引っ張ると作動するヴォイス・アクティヴェーション機能。これは、ノーマルがヴィンテージ・ライクなトーン、プルすることでパワフルなトーンになるシステム。たしかに、プルすることで音圧が少しアップする。バッキングとソロで使い分けるのもおもしろいし、曲によって使い分けられるのは新しい発想だ。
ネックはかなりガッチリとした握りになっている。ハイ・フレットにいくに従って、やや薄くなっているようだが、それでもガッチリとした幅がある印象だ。フィニッシュが、ネックも指板もナチュラルな仕上がりで、これはしっとりしていて弾き心地がいい。ネックだけではなく指板もこのタイプというのもおもしろい発想だ。
ブリッジは今時のザグリがあるタイプではなく、これまた80年代っぽい“フロイド・ローズを乗せました仕様”。昔は、みんなこれだったな〜。なので、最近のザグられたタイプよりも、ボディからの位置が高い弾き心地になる。さらに、ハイ・ポジションも、加工などせずに男の4点止め! このガッチリ感さえ懐かしく感じるわけで、何でも便利に弾きやすくすればいいってわけではないんだ! この際、1ピックアップでも、と思ってしまうが、そこはいろいろなトーンを出さなきゃいけないスティール・パンサーならではの仕様か!?
しかし、これこそシャーベル! これがディンキー! と言える嬉しくなってしまうモデルだ。

オールラウンド度:★★☆

ヘッド裏にはサッチェルのサインが印刷されている

ネック・ジョイントは、オーソドックスなプレート付きの4点止めとなっている

フィッシュマンのコイルレス・ピックアップを搭載。コイルによるハムノイズがないという優れものだ

ヴォリューム・ツマミはノーマルではヴィンテージ系、プルするとパワーのある音と、それぞれ切り替えられる

現在のシャーベルのシリーズ構成について

数多くのモデルを発表しているシャーベルだが、大きく分けると3つのシリーズで構成されている。
まず、もっともハイ・クラスなシリーズとなるのが、カスタム・ショップ。ランディ・ローズの2代目のVギターの開発をはじめ、これまで40年弱にわたって数多くのトップ・ギタリストのギター製作に携わってきたマイク・シャノン氏を筆頭としたマスター・ビルダー達が手掛けるシリーズだ。製品ラインナップとしては、サン・ディマスとソー・カルがそろっている。
続いては、名だたるギタリスト達のシグネイチャー・モデルがラインナップするアーティスト・シリーズ。ウォーレン・デ・マルティーニ(ラット)やジェイク・E・リー(レッド・ドラゴン・カーテル)、ガスリー・ゴーヴァン(ジ・アリストクラッツ)、ジョー・デュプランティエ(ゴジラ)らのモデルがそろっている。
そして、ベーシック・シリーズと言えるのが、プロ・モッド・シリーズだ。今回試奏しているディンキーやサッチェルのシグネイチャー・モデルもこのシリーズに属している。製品のラインナップは、シャーベル・ギターとして40年弱前にスタートした当時のデザインを継承しつつモダンなスペックを盛り込んだモデルが中心となっている。

問:株式会社神田商会
http://www.charvel.jp/