アンセムが語るシェクターの愛機!

 

現在、新作『ENGRAVED』のリリースに伴う全国ライヴ・ハウス・ツアーも残すところ、11月18日&19日=表参道グラウンドのみとなったアンセム。しかし休む間もなく、2018年2月14日には映像作品『ATTITUDE 2017 -Live and documents-』をリリースする。これはバンドに密着したドキュメンタリー映像と、2017年夏のツアーから川崎クラブチッタと心斎橋ビッグキャットでの模様を収録したもの。そして、このリリースに合わせて、2月12日=川崎クラブチッタ、2月22日=梅田トラッド、23日=名古屋E.L.L.という東名阪ツアーも決定している。

そんなアンセムの弦楽器隊が愛用するシェクターから、柴田直人と清水昭男のハイ・コスト・パフォーマンスな新シグネイチャー・モデルが登場した。2人にそれぞれの愛機について語ってもらいつつ、ニュー・モデルの詳細をレポートしたい!

——柴田さんが、それまで使用していたG&Lからシェクターにベースに代えたのが06年の後半ぐらいでした。最初のモデル(写真①/現在、レギュラー・チューニングのメイン)の制作時に、注文したことなどはありましたか?
柴田:基本的には、フェンダーのプレシジョンベースを元に、今の音楽にもアジャストできるモデルを作りたいとお願いしたんだ。なので、ボディ形状もプレシジョンとは微妙に違っていて、ボディのブリッジ側が大きくなっていたり、1弦側の角部分がプレシジョンより小さい。僕のいろいろな経験から、そうするほうが音が立つと思ったんだ。音質的に、できるだけクリアになるようにということで、そうしてね。あとは、AC-ANB/SIG-1として発売された白いピックガードのモデルはナットをブラスにしたりもしてる。べっ甲ピックガード(AC-ANB/SIG-2として発売中)とSIG-1は同時に作って、SIG-2をドロップ・チューニング用に、SIG-1をレギュラー・チューニング用に使っていたんだ。この2本、ピックガード以外に、ボディ材もSIG-1はアルダーで、SIG-2はアッシュ。その他、ノブが違ったり、ナットはSIG-2は牛骨になってる。ドロップ・チューニングで弾くことを考えて、SIG-2はボディ材を変えてもらったんだ。ネックの握りに関しては、僕が高校1年の時に買ったフェンダーのプレシジョンを工場に持っていって、その1フレットから最終フレットまでを全部トレースしてもらった。プレシジョンって、幅広いネックのイメージがあるかもしれないけど、僕が持っているのはそんな太くもなく、すごく握りやすいシェイプでね。せっかく作るのであるなら、このネックを完璧にトレースしてくれないかってお願いしてね。
——プレシジョンベースに足らなかったものというのはなんですか?
柴田
:プレシジョンは、ホントにスタンダードな音で、特徴はミッド・レンジの豊かさなんだよね。アンプでミッド・レンジをカットしても、ちょっとやそっとではミッドがなくならないぐらい豊かで(笑)。それは、ピックアップの特性や付けられている位置も関係していると思うけど、要するにそれがスタンダードな音なんだ。ただ、そのままだと、今の音楽は、ドロップにしたりテンポが速かったり音数が多かったりと、いろいろなヴァリエーションがあるでしょ。だから、もう少し、高域も低域も延ばしたかった。ミッド・レンジはそのままでいいんだけど、もう少しレンジを広げたくて、少しずついろんな部分を変えてる。たとえば、すごくふつうに見えるブリッジにしても、フェンダーのものよりも分厚くしたりしてる。ブラス・ナットもそうなんだけど、できるだけ弦の振動をボディに伝えるということを考えたつもり。最初は、ドロップにする時のテンションを考えて、テンション・ピンを付けたりしていたんだけど、なんか不自然だったので、今は外してる。
——ボディ材をアッシュとアルダーの2種類にした理由というのは?
柴田
:プレシジョンはアルダーで中域が豊かだった。それを、アッシュにすることで、もう少しレンジが広がるかな。少し硬めの音にもなる。
——他にこだわっていた点というと?
柴田
:すごく重いベースだと、音がよくなることはあってもライヴとかでの操作性は悪くなってしまうでしょ。だから、けっこう軽めの材を選んでる。
——いっぽう清水君は、ESPからシェクターに代わったわけだけど、製作時にリクエストしたことはありますか?
清水
:ESPの時は、既存モデルを使っていたんですよ。で、ピックアップはEMGを搭載していて、シェクターになった時にはパッシヴのダンカンを付けていたんですよね。ただ、すぐにEMGに戻したので、市販モデル(AC-AAG/SIG)もEMGになったはずです。ESPの時は24フレットのギターだったんです。シェクターで製作してもらう時は、奇をてらったモデルではなくストレートなものにしようというのはありました。そこで、使用しないトーンは排除して、あとはトグル・スイッチの位置を弾いている時に当たらないような場所にしてもらうなど、操作性を考えました。シェイプも、操作性を考えてオーソドックスな形がいいと思って、この形を選びました。ネックの握りもふつうですよ。
——ただ、ボディ材がワンピースではなく、メイプル・トップ+アルダー・バックという構造になってますよね?
清水
:昔、レスポールが好きで、メイプル・トップ+マホガニー・バックというのも考えたんですが、もう少しヌケがいいというか高域を考えて相談したところ、このボディ構造になったんです。
——パッシヴ・ピックアップも使っていたとのことですが、なぜアクティヴのEMGに落ち着いたんですか?
清水
:ゲインが安定しているし出力もあるので、いつでも音が作りやすというのが最大の理由ですね。それと、多少、コンプレッションされるので、音のまとまりがいいんです。
柴田:いちばん最初に作った時から、ピックアップですごく試行錯誤したよね? パッシヴになったりアクティヴになったり……アクティヴも何種類か試したり。でも、けっきょく、僕がオーソドックスなベースの中に現代の音楽への対応性を持たせているように、清水もそういう方向になったんだよ。ヘッドもオーソドックスだし、指板もフラットすぎるものでもないし、ホントに“ふつう”で、すごく“ふつう”の中に今の音楽への対応性を広げるための目立たないプロならではの改良がされているんだ。シンプルになっているんだけど、こだわりなんだよね、僕も清水も。
清水:オーソドックスでも、少し現代っぽさが入ってる。あまりストレートすぎると、ちょっと古くさい音になる可能性もありますよね。やっぱり、やっている音楽がメタルなので、そういうところではこだわっています。
柴田:ものすごくハイ・ゲインな音に合うようなギターを作ると、アンセムに合わない音もいっぱい出てきちゃうんだ。アンセムの楽曲ってヴァラエティに富んでるので、今時のハイ・ゲインな音も追求できるし、すごく隙間の多いブルージーな感じにもなれるところを探してみると、このギターになるんだよね。
清水:トレモロのセッティングも時代とともに変わっていまして、最初はフローティングしないでベタ付けだったんです。その後、30周年モデルを出した時に“リードが弾きやすい”というコンセプトがあって、アームを使ったヴィブラートもかけたくてフローティングにしたんですね。で、最近は、アーム・アップを使いたいというのがあって、全部のギターをフローティングにしています。

——現状では、どういう使い分けをしてますか?
清水
:レギュラー・チューニングのメインは紫(写真⑤)で、ブラック(写真⑥)がドロップD用のメイン。レギュラーのサブとして、白のシルヴァー(写真⑦)、ドロップDのサブとして白のゴールド(写真⑧)を用意しています。
——その30周年記念モデルは、指板がメイプルですよね? メイプルにした理由は?
清水
:単純に今まで使ってこなかったというのと、ちょっと代わり映えがあったほうがいいかな、と。それと白いボディなので、視覚的にもメイプルのほうが合うかなとも思いました。音的な狙いとしては、メイプルのほうが音の立ち上がりが早いのでリードが弾きやすいというのもあります。

——柴田さんのほうの使い分けは?
柴田
レギュラー・チューニングのメインはエボニー指板のモデル(写真①)です。ドロップのメインはSIG-2だったんですが、30周年記念モデル(写真②)を作ったところ、このモデルのほうがパーカッシヴで音の立ち上がりが速かったので、これになってます。それは、ネックの材、メイプル指板の影響なんです。粘っこい中域とは違うサウンドがほしかったのでメイプル指板で作ってみたら、ドロップ用にちょうどいい音になったという。ドロップ・チューニングのサブ(写真③)は、指板に塗っているニスがヴィンテージ・カラーになっているだけで他はドロップのメインと同じ。写真④のベースは、なんのサブでもなくて独立したモデルで、ドロップのメイン・ベースと同じ仕様で指板をエボニーにしてる。レギュラーのメインとドロップのメインで使っているベースを合体させたようなモデルを作りたくてこれを作ってみたんだ。
——ギターとベースの音作りで、お互いに相談したりするんですか?
清水
:アンセムは、わりとベースとギターが一体化した音だと思うので、ギターがドンシャリすぎるとベースに負けてしまうんですよ。そのあたりでうまく融合する音になるようには考えてますね。ドンシャリだと、ぜったいに音がヌケないんです。
柴田:ハイ・ゲインで、ジャキジャキの音だと、どんなに音量があっても僕のベースのほうが目立つんだ。
清水:うまく、お互いのない音域の部分が出せると気持ちいいサウンドになるので、そこは意識してますね。毎回、毎回、そうカンタンにはいかないんですが(笑)。
——写真⑥のギターをドロップのメインにした理由は?
清水
:⑥のほうが、多少硬めの音なんですね。だから、音がダンゴになりにくいんです。
柴田:ベースもギターもドロップにすると、どうしてもヌケが悪くなるんだ。僕ら5弦ベースとか7弦ギターを使ってるわけではないから、作った時のギターが持っている音質の特性で“このモデルはドロップで使おう”って選ぶ。だから、できるだけ低域にハリがありそうなモデルをドロップ用にしてる。
——そして、今回、プロゲージ・シリーズから新たに発売されたシグネイチャー・モデルですが、これまでより価格が抑えられているんですね。
柴田
:僕らがメインで使っているモデルの低価格のものなんだけど、基本的な材質や形状を同じにしながらハイ・コスト・パフォーマンスを実現してるんだよね。実際に弾いてみると、僕のモデルを作った時にこだわった点はキチンと備わっていたよ。ものすごくスタンダードな操作性と音を持ちながら、今の音楽にも対応できるベースになってる。たとえば、“プレベが好きだけど、もう少しハイが出たら”とか“もう気持ちローがあったらな”という部分が再現できてる。安いからクオリティが低いと思われるのは心外で、すごくいい音してるよ。
清水:僕のモデルも材の質などのグレードを落としているかもしれないですが、僕が使用しているのとほとんど変わらなかったですね。けっこう太い音を出してくれるし、トレモロも違和感なくスムーズでよかったです。ピックアップはEMGではないんですが、アクティヴでパワーがあります。
柴田:それぞれ、オリジナル・モデルが目指した方向性は、きっちり受け継いでると思いますよ。
——どちらのモデルも、すごくオーソドックスなスタイルなので、アンセム・ファンじゃなくても手に取りやすいですよね?
柴田
:清水のギターも僕のベースもなにを目指して作ったかというと、今時のメタルから歌もの、極端に言うとバラードまで、なんにでも反応する楽器がほしくて作ったんだ。だから、メタルじゃなくても、ちゃんと働いてくれる楽器だと思う。決して何かに特化してるモデルじゃないけど、それも弾く人しだいかと。今時のドロップ・チューニングのヘヴィ・メタルから歌もののフォークまで、ほとんどフィットすると思う。どこか足りないところがあるわけではなく、すべてに対応するサウンド・クオリティを持っているモデルかな。それが、僕の言うスタンダードということです。
清水:アンセムってパワー・コードだけじゃなくて6弦フルで鳴らすコードも必要なので、そういう時に分離がいいというのもギターを選ぶ条件なんです。そういうのも意識して作られてるので、バッキングからリードまでバランスよく弾きやすいかなって思います。アームのレスポンスもよくて、ピックアップの出力も高くゴツい音がしてくれるので、アンプのセッティングしだいでオールラウンドに使えるギターですよ。
※写真①〜⑧の本人機材は、2017年7月の川崎クラブチッタで撮影。

プロゲージ・シリーズからの新シグネイチャー・モデルをレポート!

ゴツい音がしてくれるので、アンプのセッティングしだいでオールラウンドに使える(清水)

シェクター
PA-AAG
¥180,000+税(ギグ・バッグ付き)

●ボディ:リミテッド・キルテッド・メイプル・トップ(約1mm厚)+アルダー・バック ●ネック:メイプル、4点留めボルト・オン ●指板:ローズウッド、22フレット ●ピックアップ:SGRアクティヴ・ハムバッカー×2 ●コントロール:ヴォリューム、ピックアップ・セレクター ●ブリッジ:ゴトー GE1996T SGR ●カラー:シースルー・パープル

〈編集部によるチェック・レポート〉
まず音で印象的なのは、アクティヴ・ピックアップならではのレンジの広いトーンがすることだろう。歪みのツブがそろっていて、全体的なパワフル感もある。メイプル・トップ+アルダー・バックという仕様で、音的にはアルダー色が強く、マホガニー・バックのような重低音感はないのだが、そのぶん高域のヌケのよさを感じる。歪みのツブは細かめのタイプだが、中域もあるので太さも感じる。このあたりがメイプル・トップ+アルダー・バックの恩恵なのだろうか。また、ボディはスリムに感じるものの、適度な重量感があり、このあたりが中域の出具合に影響を与えているのだろう。
ネックは、ややガッチリ型のUタイプ。バッキングを弾く時に、手のひらにしっかりとフィットする感じで安心感がある。本人仕様のモデルと比べていないので、その差を比較することはできないが、この価格帯でも充分なクオリティを持っていると実感できるはずだ。

アームは差し込むだけのタイプ。アームの高さも調整可

ボディ・サイド部に設けられたケーブル・ジャック

スタンダードな操作性と音を持ちながら、今の音楽にも対応できる(柴田)

シェクター
PA-ANB
¥165,000+税(ギグ・バッグ付き)

●ボディ:アルダー、2ピース ●ネック:メイプル、4点留めボルト・オン ●指板:メイプル、20フレット ●ピックアップ:セイモア・ダンカン SPB-2 ●コントロール:ヴォリューム、トーン ●ブリッジ:ゴトー 203B-4b ●カラー:ヴィンテージ・ナチュラル

〈編集部によるチェック・レポート〉
まず、持った瞬間にベースにしては軽いと感じられた。ところが、出てくる音は、かなり極太! 中低域の出方がドーンという感じなのだ。それでいて、4弦を弾いても音程感がなくならず、しっかりと聴こえてくる。そのため音のヌケがよく、どのポジションで弾いても、同じ音量バランスでしっかりと鳴ってくれる印象だ。たしかに、柴田直人の音がここにあるような気がしてしまう。ふつうにオーソドックスな“いい音”のベースで、こういったベースらしいベース・サウンドが懐かしく感じてしまうのだが、かと言ってヴィンテージ・トーンというわけではなく、この低域のヌケこそ近年のモダンなヘヴィ・ロックにも合いそうなサウンドだ。
そのネックは、とにかく弾きやすい。ベースらしからぬ太さなので、手の小さい女性でもいけるんじゃないだろうか。
ヘヴィなサウンドに合いそうと言ったものの、音も弾き心地もバランスがいいので、どんなジャンルにも合うベースとは、まさにこのモデルのことではないだろうか。

ヴィンテージな雰囲気を醸し出すフィンガーレスト

ブリッジのサドルはブラス製。弦振動をボディにしっかりと伝えてくれる

問:シェクター・コーポレーション株式会社(http://www.schecter.co.jp