IKUOが迫るTONEXの魅力

アンプや歪み系エフェクターをキャプチャーした音色を再現する、話題のTONEX。
ギタリストに注目されがちだが、もちろんベースにも対応しているのが魅力だ。今回は、プロ・ベーシストからも一目置かれる存在であるIKUO(Rayflower/BULL ZEICHEN 88/The Chopper Revolution)に、そのTONEXに迫ってもらった。

IKUOによる試奏動画


IK Multimedia
TONEX ONE
¥33,000(税込)

■仕様■
●プリセット数:20
●プリセット/バンク:2プリセット(A/Bモード)、1プリセット(ストンプ・モード)
●コントロール:ベース(ゲート)、ミドル(コンプ)、トレブル(リバーブ)、ヴォリューム(ゲイン)
●エフェクト:ノイズ・ゲート、コンプレッサー、リバーブ
●アサイン・カラー:9色
●IR:VIR multi-IR Cabinets/Custom IR Loader
●デフォルト・トーン・モデル:212種類
●バンドル・ソフトウェア:TONEX SE/AmpliTube 5 SE
●ダイナミック・レンジ/サンプリング周波数:24-bit/44.1 kHz
●USB端子:USB-C
●電源:9V DC/120mA
●外形寸法:48(幅)×94(奥行)×53(高さ)mm
●重量:160g

■TONEX ONEだけで、数種類のアンプをまかなえるなんてえげつないですね(笑)

——これまで、デジタルのアンプ・シミュレーターにどういう印象を持っていましたか?
IKUO:単体のアンプ・シミュレーターを使ったことが、そこまではなかったんですよ。マルチ・エフェクターの中に入ってるものやDAWに入ってるものぐらいですかね。自宅のDAWでCubaseに入ってるVST Amp Rackを使ってるんですが、自宅録音する時などは必ずVST Amp Rackに入ってるシミュレーターを足しています。
もともとのプリセットにあるようなアンプ・シミュレーターなんですが、たとえばベースのレコーディング・データを納品する際にロー感をプラスするために、ドライ音とエフェクト音、さらにシミュレーターを通った3音色を納品したりしてます。レコーディング・スタジオで行なうレコーディングの場合は、必ず自分のアンプを持ち込むのでシミュレーターは使ったことないんですよ。レコーディングの時は、ライン、ドライ音、キャビネットのウーハーとツィーターにマイクを立てた音を録ってます。
——世代的には、やはりアナログにこだわりたい世代ですよね(笑)。
IKUO:そうですね(笑)。ただ、やはり時代の波は押し寄せてきていて、デジタル機器を使うベーシストも多くはなってきてますよね。僕は、そこまでデジタルな機材にくわしいわけではないので、今回もTONEXソフトウェアをダウンロードするのにも手こずりましたから(笑)。
——時間かかりましたか!?
IKUO:そこまでたいへんだったわけじゃないんですが、シリアル番号を入れたりするのが面倒な世代で(笑)。でも、ダウンロードしたあとは、日本語の説明書はなかったんですが、わりとサクッと音作りに入れました。
今回のテーマはクリーンと歪みで、TONEXソフトウェアの左下にあるところ(下記の写真①のⓔのエリア )で「Bass」と「Clean」を選ぶだけでいっぱい出てきて、すごく見つけやすかったですね。
——DAWで使っていたアンプ・シミュレーターとも違いましたか?
IKUO:違うかもしれないですね。完全にアンプの音に特化してる感がありました。
もちろん、PCで音作りしてるので、マルチに入ってるようなシミュレーターよりもプラグインに感覚は近いです。あとは、これはTONEXならではだと思うんですけど、デフォルトで入ってる音(トーン・モデル)を大胆に変更するより、そのままに近い形で使ったほうがいいと感じました。デフォルトの音も、きっと誰かがいいと思った音をキャプチャーしたんでしょうから、やはりゼロからスタートしてエディットするよりラクに音作りができました。(写真①のⓖの部分に)“slap”って入れてヒットした音が、たまたまよかったのかもしれないですけど(笑)、“なるほどな”と思うアンプの音になっていたんですよ。最近、ハヤりのドライヴさせたトーンというか、フュージョン的なクリーンなトーンではない歪んだスラップ用の音が出てきたんです。コンパクト・エフェクターで歪ませたような音だったので、それを中心に音作りしていこうって、すぐに決まりましたね。
スラップのほうで使ったのは「Snarly Slap」で、ソロで使ったのは「No Need For Guitarist」というデフォルトで入ってるプリセットです。「Snarly Slap」は、MXRのダイナコンプが入った音をキャプチャーしてるみたいで、“なるほどスラップに合う音だな”って思いました。ダイナコンプって最近はあまり使うベーシストもいないと思うんですけど、マルチ・エフェクターとかプラグインのシミュレーターには必ず入ってるんですよね。そのダイナコンプのシミュレーターって、意外によくできていてスラップで使うコンプの代表みたいになってます。昔は、今のようにベース用のコンプも多くなかったですし、本物のダイナコンプは“コンプレッサーってこれだよね”というわかりやすいモデルだったじゃないですか。あの“ベースを通した時にカッコいい”という音を、シミュレーターでは音ヤセもなく再現してくれてるんです。シミュレーターのダイナコンプってベース用になってるんじゃないかと思うぐらいよくできてるし、今回、選んだ「Snarly Slap」で使われたであろうダイナコンプも音ヤセもなく再現されてますね。
——この「Snarly Slap」のプリセットでキャプチャーされたアンプは、ギャリエン・クルーガーのMB15のようなんですね。ふだんマーク・ベースを愛用しているIKUOさんですが、ギャリエンを使ったことは?
IKUO:あります。このプリセットは、たしかにギャリエンにダイナコンプを足した感じはしますね。ただ、僕が使ったことがあるギャリエンはここまで歪む感じではなかったんですよ。もっとスタンダードな感じだったので、それよりもモダンなギャリエンをキャプチャーしてるんじゃないですかね。なので、ギャリエンだから選んだというよりは、トーンでこのプリセットを決めた感じです。
——エディットもしていきましたが、ポイントは?
IKUO:僕がスラップ・サウンドを作る時に必要な周波数をエディットしていきました。僕は500Hzをカットするんですね。TONEXソフトウェアのEQはフリーケンシーが付いているので、デフォルトからまずはそこをカットして音をクリアにしつつオケとの馴染みをよくしました。あとはロー感を出したいので、100Hzあたりを上げました。60Hzあたりも上げたかったんですけど、その周波数帯はなかったのでスーパー・ローのDepthで補う感じですかね。あとはスラップのキラびやかさを出したいので、4.5kHzあたりを上げたいところなんですが、残念ながら4kHzまでしかないんですよね。だた、いろいろエディットしてみつつ、もともとの設定も僕の理想に近かったので、デフォルトに戻してはエディットしての繰り返しでした。エディットした音を保存しておけばデフォルトと比べられるので、それも便利ですね。
——エディットのポイントととして、Mixツマミでドライ音を少し出すようにしてますね。
IKUO:少しだけ生音を出すことで太さとミッド感が加えられるんです。デフォルトは、わりとガリっとしていたので、ほんの少しだけそこを抑えて生音を出す感じですね。
——プレゼンスがかなり上がってますね。
IKUO:TONEXソフトウェアのトレブルが4kHzまでしかなかったので、もっと上の帯域を出してスラップのキラびやかさを出したかったんです。
——IKUOさんというとコンプだと思うんですけど、TONEXはコンプの設定もできるじゃないですか。
IKUO:ナチュラルにかかってくれるので、それほどエディットする必要はなかったですね。ツマミも3つとシンプルなので設定しやすいし、スレッシェルドぐらい調整できればいいかなと思いました。今回、外付けで自分の使ってるコンプを使うのもありかと思ったんですが、いらなかったです。コンプも、デジタルのよさって、やはり音ヤセがないし、ノイズが少ないじゃないですか。それがいいんですよ。
——「No Need For Guitarist」というソロで使ったプリセットはどうでした?
IKUO:これは、ゴリゴリに歪んでるプリセットを探そうと思ってみつけました。ギター用のボスのDS-1(ディストーション)がカマされた音をキャプチャーしてるんですね(笑)。今回はギター用のディストーションでギター用の音を作りたかったので、ピッタリでした。
でも、本物のDS-1をベースで使うと、こうもいかないんですよ。ベース用じゃないから、もっとローがなくなるというか。それが、TONEXソフトウェアだといい感じなんですよ。それは、これもMixツマミでドライ音を混ぜることができるからなんです。歪みの部分をシミュレーターで作って、そこに生音を混ぜるという音作りができるんですね。このMixツマミがあってくれるのはうれしいですね〜。このツマミで、そうとう音作りが変わりますから。デフォルトではフルだったんですが、そこにドライ音を混ぜるのがロー感だったりをプラスするのにポイントになります。
——ソロの音色の時には、リバーブもオンにしてますね。
IKUO:本当はディレイが欲しかったんですけど、設定しだいでディレイっぽい使い方もできました。あとは、かなり歪んだ音色だったので、ノイズ・ゲートを使いました。これがあるとないとでは大違いですね。めちゃくちゃ便利です。
——今回、動画で使用した2音色以外でも、ToneNETを使って、たとえばマーク・ベースがキャプチャーされたトーン・モデルも試していただきました。
IKUO:マーク・ベース自体、もともとナチュラルなアンプなので、ToneNETにあった音もナチュラルなものが多いですね。僕は、いつもエフェクト・ボードにコンプと歪むプリアンプを入れてるので、歪むアンプを必要としてなくて、大音量でワイド・レンジなタイプということでマーク・ベースを使ってるんです。
今回は、エフェクト・ボードは使わずTONEXだけで音作りをしたかったので、マーク・ベースをキャプチャーしたトーン・モデルは使わなかったんです。今度、機会があったら、自分のボードにプラスしてマーク・ベースのトーン・モデルを試してみたいですね。
——では、TONEXソフトウェア、そしてTONEX ONEを試してみて、どう感じましたか?
IKUO:うまく使いこなせれば、かなり便利だと思います。今回、アンプとしてTONEX ONEで2音色使ったわけですけど、不思議な感じがしました。まず、2台のアンプをこの中で切り替えられるなんて、ふつうはありえないじゃないですか。チューナーも付いてるし、TONEX ONEがあればアンプいらずでライヴができるんですよね。たとえば、“バラードはアンペグにして、スラップではハートキーにしたい”という使い方がひとつのライヴで可能になるんです。ベーシストって、ライヴで数種類のアンプを使いたいという願望があって、それをエフェクト・ボードで作っていくんですね。それがTONEX ONEひとつで叶えられるなんて、かなりえげつないですよ(笑)。


TONEXは大きくは、ソフトウェアとハードウエアに分かれる。PCやiOSで使用するTONEXソフトウェアと、TONEX ONEやTONEX PEDALなどのストンプ・タイプ(ハードウェア)のものだ。
今回は、TONEXソフトウェアで音を作り、それをTONEX ONEに転送して、IKUOに実際に演奏してもらい、TONEXがどれだけ実戦で対応できるかに注目してみた。
実際の流れは、上記のように、
①TONEXソフトウェアで好みのトーンを探す
②トーン・モデルをエディットして自分好みの音にする
③プリセットとして保存する
④TONEX ONEに転送する
という手順になる。
IKUO自身が好みの音(トーン・モデル)を探してエディットし、TONEX ONEに転送し、その音を使ってさすがすぎるプレイ(動画)をしてくれたぞ! 


■TONEXソフトウェアを理解しよう(写真①)

まずは、TONEXのPCソフトウェアから解説しよう。
上にあるのがTONEXソフトウェアの画面(写真①)だ。

=メイン・メニュー的なセレクト・ボタン
Homeはホーム画面、Modelerはキャプチャーする際の画面、Librarianは後に紹介するTONEX ONEやTONEX PEDALと同期する際の画面に、それぞれ切り替わるボタンだ。
ⓑ=プリセット&デフォルト・トーン・モデルの切り替えボタン
 「Tone Model」ボタンを押すと、ⓕの部分にトーン・モデルが表示される。
ⓒ=ToneNETアクセス・ボタン
押せばの部分に世界中のユーザーがアップロードしたトーン・モデルが表示される。日々、増えていくので無限大のトーン・モデルが選択可能だ。
ⓓ=エフェクト等、選択ボタン
ノイズ・ゲート、コンプレッサー、リバーブ、それぞれのオン/オフおよびエディット(下記の写真③〜⑦参照)、アンプのオン/オフ、キャビネットのオン/オフおよびマイクのセレクトやマイキングのエディットなどを行なうボタン。
キャビネットのボタンは、カスタムIRを選択する画面にもなる。また、いちばん右のAdvanced Parametersを押すと画面が変わり、アンプの細かなエディットをすることが可能となる。上写真のアンプのイラストのツマミ類でもトーン・エディットは可能だが、Advanced Parametersを押すことで、ベース、ミドル、トレブルのフリーケンシーまで調整できるようになる。
ⓔ=絞り込みエリア
ToneNETとデフォルトで、多くのトーン・モデルが表示されるが()、ここで絞り込むことができる。ギター、ベース用という楽器セレクトの他、エフェクターをキャプチャーしたものなのか、アンプ・ヘッドなのか、ヘッドとキャビネットなのかというタイプの選択の他、クリーンやドライヴなどの目指す音のキャラクター、キャビネットのスピーカーの数を選んだりすることで絞り込めるのだ。

 

■TONEXソフトウェアで好みのトーンを見つける(写真②)

続いては、今回の本題であるTONEXの音をどう実戦で使うかを解説していこう。
まずは、PC上のTONEXソフトウェアで、好みのトーンを見つけることからだ。
TONEXソフトウェアの使い方は上で説明したとおりだが、実際に大元となる音を探すとなると、2種類の方法がある。
ひとつは、
のエリアでデフォルトのトーン・モデルを選択する方法。もうひとつは、のボタンを押してToneNETに接続してトーン・モデルを探す方法だ。
どちらの場合も、基本的にベース(ギター)をオーディオ・インターフェイス経由で接続して、音を出しながら探していくことになる。目的の音像があれば、
のエリアである程度に絞って探すほうが時短になるだろう。
じっさい、IKUOもで“BASS”をセレクトし、の検索で“slap”と入力することで目的に近い音色を表示させていた。
今回は、デフォルトのトーン・モデルからMXRのダイナコンプ+ギャリエン・クルーガー MB150S(アンプ・ヘッド+キャビ)をキャプチャーした「Snarly Slap」という音色をスラップ用にセレクト。ソロ用には、「No Need For Guitarist」というプリセットを選択。こちらもデフォルトのトーン・モデルで、ボスのDS-1(ディストーション)+アンペグ SVTⅡ Pro+FBT Superbass 250W(キャビネット)をキャプチャーしたものだ。

右上の“ToneNET”というところをクリックすると、下段に世界中のユーザーがアップロードしたトーン・モデルが表示される。なお、“ToneNET”に接続しなくても、TONEX CS(無料ダウンロード可能)では20種類のトーン・モデルを搭載。TONEX ONEにバンドルされているTONEX SEには200種類、TONEX MAXだと1,100種類のトーン・モデルが搭載されている

 

■エディットして好みの音にする

続いては、選択したトーン・モデルを、さらに好みの音色になるようにエディットしていく
選んだトーン・モデルのまま使用するのもありだが、IKUOはさらにトーンを作り込んでいった。とくに、こだわったのがEQのセッティング。かなり幅の広いEQなので、動かしすぎると元のトーン・モデルからかけ離れてしまうため、時間をかけて作り込んでいった。結果的には、あまりエディットしすぎるよりも、デフォルトを生かしたセッティングがオススメとのこと。

IKUOが選んだ、2種類のトーン・モデル
「Snarly Slap」/スラップで使用

▲写真上段は「Snarly Slap」の画面、写真下段は使用しているコンプレッサーの設定画面

「No Need For Guitarist」/ソロで使用

▲写真上段は「No Need For Guitarist」の画面、写真中段はコンプレッサー、下段はリバーブの設定画面だ。また、ノイズ・ゲートもオンにしている

 

■プリセットとして保存

エディットした音色は、プリセットに保存しよう。
保存方法は、写真①の
のエリアのフォルダのイラスト部分(写真下)をクリック。

そうすると下の写真のような保存画面が出てくる。ここで、保存するフォルダ(新規ならフォルダ名を付ける)を選んでプリセット名を付けてセーブすれば完了だ。

保存されたプリセットは、ユーザー・フォルダーに収録されているので、これでいつでも好みのサウンドにエディットしたトーン・モデルを呼び出すことが可能となる。もちろん、保存したプリセットは、さらにエディットして保存することも可能。音作りで沼にハマりそうであれば、そのたびに名前を変えて保存し、あとから聴き直して音色を選ぶのもオススメだ。

 

■TONEX ONEに転送

TONEXでの実戦の最終仕上げだ。
今回は
TONEXソフトウェアで作った音をTONEX ONEに転送することで完了となる。
TONEX ONEは、フットスイッチを押すことで2種類の音色が切り替えられるA/Bモードと、バイパス音とトーン・モデルの音をフットスイッチで切り替えるストンプ・モードを搭載しているペダルだ。
合計20種類のプリセットを保存でき、TONEX ONEのツマミ類でベース、ミドル、トレブル、ノイズ・ゲート、コンプレッサー、リバーブ、ヴォリューム、ゲインなどの調整も可能。なんとチューナーまでも内蔵しているという、オール・イン・ワンのペダル・エフェクターとなっている。
そのTONEX ONEに転送するためには、PCとUSB-Cで接続し、TONEXソフトウェアのLibrarianを押すだけで同期が完了する。ここから、先ほど保存したプリセットを呼び出し、TONEX ONEに送るわけだが、それも簡単にできる。下の画面のように、プリセットを選んで上にドラッグ&ドロップするだけ。上の画面は、A/Bモードの場合のトーン・モデルと、ストンプ・モードの場合のトーン・モデルが表示されている。下の部分は、搭載されているトーン・モデルだ。

▲下に表示されているトーン・モデルを上部の任意の場所にドラッグ&ドロップすれば、TONEX ONEへの転送は完了する

 

■IK Multimedia TONEX ONEの詳細■
https://hookup.co.jp/products/ik-multimedia/tonex-one