弦、新時代!!〜アーニーボール編

 

アーニーボール史上、最強のギターの弦
パラダイム・スリンキーが登場

アーニーボールの新しいギター弦、パラダイム・スリンキー。
最新技術が投入されたことで、切れにくくサビにくい、それでいてこれまでのスリンキー・シリーズと同様の弾き心地やトーンを持っているというこの新製品について、詳しく紹介していこう。

Ernie Ball Paradigm Slinky ¥オープン

▲1〜3弦がプレーン弦、4〜6(7)弦がワウンド弦だ。全9種類、7弦用も含めて、ダウン・チューニングに最適なタイプなど多くの要望に応えるゲージを用意している

 

◎革新的な特徴とは?

このパラダイム、その特徴がすごい。大まかに言ってしまうと、切れにくく、サビにくいということなのだが、梅雨から夏にかけての季節に3ヵ月も放置していたら弦はサビるし、その前によく弾くギタリストなら切れてしまうだろう。それが当たり前だったわけだが、なぜ、その問題を解消できたかというと、まず、弦の素材に最先端伸線加工を施した超極細高強度のスティール・ワイヤーを使用しているから。これにより耐久性が大幅にアップしているというのだ。資料には「疲労耐性:70%UP」とある。
さらに、ボール・エンド部にRPS(レインフォースド・プレーン・ストリングス・テクノロジー)という技術を使うことで、弦切れが起こりやすいボール・エンド部のストレスを最小限に抑えているという。このため、「抗張力:35%UP」も実現。疲労耐性やら抗張力やら、難しい感じが出てきてわかりにくいのだが、とにかく、この2つだけでもハードなピッキングやチョーキングに耐える強度を実現し、安定したチューニングも獲得したというのだ。そして、ワウンド弦には高熱のプラズマ処理をすることで、弦を劣化させる物質を取り除き、さらに「ナノ・トリートメント処理」という5nm(=0.000005mm)のコーティング技術により、水分・脂分を寄せ付けないという処理まで施されている。
という、とにかく最先端の技術を採用して強度をアップし、サビに強くなっているというモデルなのだ。それでいて、これまでのスリンキー・シリーズと同様の触り心地とトーンを持っているという。これはすごすぎます!

▲上がノーマル・スリンキーの6弦(042)で、下がパラダイム・スリンキーの6弦。この写真上では、まったく違いはわからない!

▲ボール・エンド部の違いも見てみよう。上がノーマル・スリンキーで、下がパラダイム・スリンキーだ。パラダイム・スリンキーのほうは、RPS(レインフォースド・プレーン・ストリングス)テクノロジーという方式を採用することで、弦切れが起きやすいストレスを低減している

 

◎メーカーズ・ヴォイス

続いては、WeROCK 060の締め切りには間に合わなかったが、その後に編集部に届いたアーニーボールの証言を紹介しよう。答えてもらったのは、アーニーボール社の社長、ブライアン・ボール氏だ。
——パラダイム・スリンキーの開発の狙いを教えてください。
ブライアン:パラダイム・スリンキーの開発の狙いは、従来のスリンキー・シリーズのトーンとフィーリングを100%残しつつ、もっとも長く寿命が持つ弦を作ることでした。この弦の実現にあたり、弦の寿命を引き伸ばすため、主たる3点の要素“物理的な耐久性”、“耐腐食性”、そして“音の調性”について研究を行ないました。パラダイム・スリンキーには、それらの研究の結果である多くの技術が使用されており、それらが組み合わさって、相乗効果を生んでいるのです。
——パラダイム・スリンキーの開発時に、いちばんこだわった点は?
ブライアン:かなりハードにプレイするギタリストが弾いても寿命が長く持つ、より強度の高い弦を作り出すという点です。多くのギタリストにとって、弦の寿命とは、弦を張ってからそれが切れるまでにかかる時間になります。単純にコーティングあるいはトリートメントを弦に施すだけでは、そういったプレイヤーが使っても長く寿命が持つ弦を提供することができないと考えました。
——ナノ・トリートメント処理とは、コーテッド・スリンキーに施されているコーティング技術とは異なるものなのですか?
ブライアン:その通りです。エヴァーラスト・トリートメントは、コーテッド・スリンキーに施されているコーティングとは異なるプロセスであるので、結果もまた異なります。コーテッド・スリンキーは、ワウンド弦の巻き線にのみ、超極薄のエナメル・コーティングが施してあります。エナメル・コーティングは、開発当初の他のコーティングと比べると、そのフィーリングとサウンドがスリンキー・シリーズともっとも近いものになりました。エヴァーラスト・ナノトリートメントは、ワウンド弦の巻き線だけではなく、芯線にも施されていて、トーンとフィーリングにまったく影響を与えないのです。
——プレーン弦とワウンド弦の芯線がキメ細かい粒子による高い引っ張り強度を実現しているとのことですが、なぜキメ細かい粒子だと強度が高くなるのですか?
ブライアン:パラダイム・スリンキーのプレーン弦とワウンド弦の芯線は、とてもユニークな伸線加工プロセスで作られた高強度スティールでできています。ワイヤーの構造と伸線加工のパラメーターから、高い引張強度に加えて、高い疲労耐性が実現されています。これによって、弦を使用し続けていると生じてきて、破損する原因となるひび割れに対して強い耐性を持つのです。
——ワウンド弦のプラズマ処理とはどんな処理ですか? また、それはそのアイディアは、どこから出てきたものですか?
ブライアン:プラズマ処理は、かつて弦にも使われていた他の線製品に使用されている既存のプロセスになります。プラズマは、弦の表面を滑らかに再構成することで、水や汗に対する反応度を低下させ、コーティングなしでも耐腐食性を実現しているのです。
——パラダイム・スリンキーの開発時、製作時の裏話はありますか?
ブライアン:我々は、ギター弦に関する新しいアイディアやテクノロジーをつねに求めています。パラダイム・スリンキーの開発には、6年以上の時間がかかり、それは途方もないチャレンジでありましたが、それだけの価値がありました。我々は、強度と耐久度という観点から弦の限界を押し上げたかったのです。世界トップクラスでラウドなギター弦であるコバルト・スリンキーとM-Steelの開発に続いて、今回のパラダイム・スリンキーの開発へ至ったのは、きわめて自然なことだったのです。
——M-Steelエレクトリック・スリンキーの開発は、パラダイム・スリンキーの開発にどんな影響を与えましたか?
ブライアン:M-Steelの開発は、品質の高い芯線を作ることの多くの見識を与えてくれました。パラダイム・スリンキーのワウンド弦の芯線とプレーン弦の開発にあたって、M-Steelの開発から得たそれらの中で、とくに耐久度に関する多くのものが役立ちました。
——90日保証を実施しようとした理由を教えてください。また、消耗品である弦が長持ちしてしまうというのは、ある意味、企業的にはデメリットにも感じてしまうのですが、そのあたりはどうお考えですか?
ブライアン:パラダイム・スリンキーの開発のゴールは、前例を見ないレベルの安心とともに、より長い寿命を持つ弦を、いの一番にお客様にお届けすることでした。ギター弦は、けして切れることのないものではなく、必ずどこかで交換しなければならないものです。我々は、世界トップ・レベルのエレキ・ギター弦メーカーであるために、着実な革新を通して、多くの新しいお客様を獲得していきます。生涯に渡るお得意様を継続的に作り出し続けていくこと、それが我々の流儀なのです。
——ポール・ギルバートやカーク・ハメット、ジョン・ペトルーシらがパラダイム・スリンキーを使っているようですが、彼らからはどんな感想が届いていますか?
ブライアン:プロダクションに入る前のベータ・フェイズでアーティストから寄せられたフィードバックは、100%ポジティヴなものでした。長年のアーニーボール・アーティストであるカーク・ハメット、スティーヴ・ヴァイ、ジョン・ペトルーシは、パラダイム・スリンキーのトーン、フィーリング、テンションは、何十年も使ってきたニッケル・スリンキーのそれと完璧に同じだと話しています。また、特徴である優れた引張強度と疲労強度、耐腐食性は、毎晩ステージに立ち、パフォーマンスができるような安心感と自信を彼らに与えました。ポール・ギルバートは、09ゲージの弦のチューニングを普通の弦なら到達する前に切れてしまう5音高くまで上げることができたことから、とくに引張強度を評価してくれています。スティーヴ・ヴァイは、チューニングの安定性と2時間ハードにプレイした後でもほとんど弦が擦り減らないことを評価してくれています。
——弦に関して、ギタリストから寄せられるリクエストは、どういったことが多いですか? また、それを取り入れる際に注意している点は。
ブライアン:正直な話、我々はこれまで新しい弦の種類や素材などに関するリクエストをあまり受けたことはありません。それは、ギタリストたちが、エレキギター弦のニッケル・スリンキーやアコースティックギター弦のフォスファー・ブロンズ、あるいはコーティング弦に満足してくれているからだと思われます。我々には、ギタリストに新しい音を与えることができる弦を作り出したいという全社共通の強い望みがあります。新しい巻き線や芯線に関する産業の幅広い実験は、ニッケルメッキの弦とフォスファー・ブロンズの弦が出現した70年代からずっと取り組まれなかったアイディアでした。しかし、我々は、何年にもわたる実験を通して、コバルト・スリンキー、M-Steel、アルミニウム・ブロンズを発表できたのです。
——パラダイム・スリンキーは、どのようなギターを弾く、あるいはどんなジャンルのギタリストにオススメでしょうか?ブライアン:パラダイム・スリンキーは、ニッケル・メッキを施した巻き線が使用され、音とフィーリングが従来のニッケル・スリンキーのものになるように作られています。オリジナルのスリンキー・シリーズを愛するあらゆるジャンルのギタリストの方にパラダイム・スリンキーのトーン、フィーリングをより長く楽しんでもらえると思います。パラダイム・スリンキーは、優れた強度と寿命を持ち、ブライトでバランスのとれたトーンであるので、どんなタイプのエレキ・ギターあるいはセミアコースティック・ギターにとって理想的な選択肢の1つとなるでしょう。

 

◎通常のスリンキーと比較! 実際はどうなの!?

さてさて、いろいろな技術やテクノロジーを使っているというのはわかったが、実際の弾き心地や音色がどうなのかが問題だ!ここでは、実際の使用感をレポートしてみよう。試奏してくれたのは、ふだんからアーニーボールの使用ギタリストでもある、TSPのShuだ。
「いつもアーニーボールのM-STEELというモデルを使用していますので、まずはノーマルともいえるスーパー・スリンキーから試奏して、パラダイムとの違いを比べてみたいと思います。ふだんはロー・チューニングなので10〜52というゲージを使ってますから、今回の09〜42を弾くのも懐かしい感じです(笑)。弾いてみると、アーニーボールに慣れている方なら、まさにこれがベーシック! と思うでしょう。弾き心地、テンション感、倍音成分などなど、標準ともいえる仕様じゃないでしょうか。
個人的には、ひさびさに09〜42というゲージで弾いたのですが、巻き弦のテンション感がけっこうあるなと感じました。アーニーボールのイメージは、柔らかめのテンションで弾きやすい印象があったので、09ゲージを使用する際も低音弦側は46のハイブリッド・スリンキーを選んでいたんですね。09〜42でも、このぐらいしっかりしたテンション感があったんだなって思いました。プレーン弦側の1〜3弦は、柔らかめでチョーキングやヴィブラートが決めやすいアーニーボールならではのテンション感ですよね。この弾き心地に慣れると、他のメーカーのモデルが使いづらくなってしまうほど、弾きやすいと思えます。
さてさて、パラダイム弦を張ってみましょう。見た目はまったく通常のスリンキーと区別がつかないです。すでに使用したという知り合いのギタリストからは、“ちょっと慣らした後の感じ”という話も聞いていたのですが、どうしてどうして。まったく違和感ないし、通常のスリンキーの新品と同様の感じです。弾いた時の第一印象は……“なんか響きが大きくなってない?”と思いました。スーパー・スリンキーより、生音が大きくなったと感じられたんです。そして、弾き心地のほうはですが、う〜ん、まったく違いがわからないです(笑)。ちょっとだけ、テンション感が強いかな? いや、そうでもないような……というぐらいの違いですかね。
ところがですね、アンプに通して音を出してみると、音質には違いを感じました。なんか、元気のいい音がします! 倍音もよく出てくれて、高域のヌケというか中域の盛り上がりを感じます。ローも“ゴン”という感じで出てくれるし、やっぱり通常のスリンキーよりパワーがあると思いましたね。好みの差はあると思うけど、“パラダイムのほうが音もいい”と感じるギタリストもいるんじゃないですか?僕が使ってるM-STEELに近いかもとも思いました。今回は、大音量での試奏じゃなかったんですが、今度はバンド・サウンドの中でM-STEELと比べてみたいですね」(Shu)。
とのことだったが、じっさいにスペクトラム・アナライザーで測定してみたので、下のグラフ①を見てほしい。


▲グラフ①。新品時にノーマルのスリンキーとパラダイムの音をスペクトラム・アナライザーを使って比較してみた。赤いほうがパラダイムで、オレンジがノーマルだ

 

オレンジ色がスーパー・スリンキーで、赤がパラダイムだ。同じギターで弦だけ交換して測定したにも関わらず、全体的にパラダイムのほうが上回ったグラフを示しているのが驚きだ。とくに低域〜800Hzあたりまでの上回り方はわかりやすい。このあたりが、Shuが低音の押し出しを感じた部分だろうか。400〜800Hzあたりはかなり上の数値を測定しており、このあたりが、ヌケを感じた部分になるのか。ちなみに、ここでは紹介してないが、DAW上に示される波形を見るとパラダイムのほうが大きくなっており、明らかにヴォリューム感が増していたのも確認できた。そのあたりを総合しても、Shuが言う“スーパー・スリンキーよりも元気よく感じた”という部分が立証できるのではないだろうか。
結果的に、スーパー・スリンキーと同等、いやそれ以上のサウンドを示してくれたと言っても過言ではないパラダイム。ここからがいちばんのポイントだが、弦の耐久性、サビ具合がどれぐらいなのかだ。この弦の特徴もそこにあるわけで、3週間後に測定してみたのが、下の写真とグラフ②の測定だ。


▲グラフ②。こちらは、パラダイム・スリンキーの使用前と使用後のスペクトラム・アナライザー。白い部分が使用後だが、使用前よりもむしろ上回っている帯域もある!?

 

▲ギターに張って3週間ほど弾いた後のノーマルのスリンキー(上)とパラダイム・スリンキー(下)。梅雨時期の湿気の多い季節にも関わらず、ほとんど変わっていない。驚くことにノーマルのスリンキーもほとんどサビていないので、微妙な実験結果に(汗)。でも、ヤラセじゃないことの証明です

 

ここまで、毎日のようにギターに触り、適度に汗をかいたまま拭かずに放置しておいたのだが、ほぼ新品と同様な弾き心地だった。さらに、音質が変わらないどころか、なぜか、アナライザーで測定してみると、600Hzあたりの数値が上回っている部分さえあった(汗)。
今回は3週間にわたってのテストだったが、このモデルは、その看板に偽りがないどころか、革命的な弦の誕生といえるのではないだろうか!?

 

◎プロ・ギタリストの評価は?

高崎 晃(ラウドネス)/photo by SHIGEYUKI USHIZAWA
ふだんは、すべすべしていて安心感があるコバルト・スリンキー(009〜046)を使ってる。コバルトは、サウンドに瞬発力があってパワフル!  今回、愛用のキラー・ギターにパラダイムを張って試してみたんだけど、コバルトより感触はドライだね。フィンガリングにしてもピッキングにしても、そう感じた。自然で、とっつきやすいよ。音的にはどちらかと言うと中高音にピークがあって弾きやすい感じで、バランスはまとまっている印象かな。
個人的な好みとしては、音の瞬発力があって、弾いた通りに応えてくれる弦が好きなんだけど、パラダイムのほうがコバルトより少しミドル寄りに感じたよ。コバルトは、もう少しワイド・レンジな感じ。
パラダイムは、アクティヴ・ピックアップのギターに合う感じがする。激しいプレイでも切れにくいのであれば、メタル向きとも言えるよね。感覚的に高音域が、じゃっかん抑えられてるのでJAZZにもいいかもしれないね。

 

KENTARO(ガーゴイル)
ふだんは、アーニーボールのM-STEELを使ってます。サスティン、各弦のバランス、アタック&トーン、どれも今まででいちばん自分好みの弦です。
パラダイムは、通常のスリンキーやM-STEELに比べて少し硬い印象で、そのぶん、じゃっかんテンションも強めかな。触った感じは通常のスリンキーに近い感じですね。コーティング弦って音質的に中高域がちょっと詰まった印象でしたが、(パラダイムのナノ・メーターの極薄トリートメントでは)まったく感じないです。弾き心地も違和感がない。トーン的には通常のスリンキーに近い感じで、プラス低域がしっかり出てる印象です。エッジ感&サスティンはM-STEELのほうがあるかな。でも、音の振動の伝わり方は帯域は違うけど、どちらも同じくらいあると思う。歪ませてミュート弾きした時の低域のタイトな感じはパラダイムのほうが好きですね。耐久性ですが、今2週間目で切れてないしサビもなく&音の劣化もまだほとんど感じないです。ふだんならヘタしたら1日持たずに切れたりサビたりするほどのサビ手なので(笑)、これは本当にすごいと思います。
いい意味で弾き心地や音に強いクセもないし、これはどういう人にもオススメできますね。自分もライヴはしばらくこのパラダイムを使い続けてみようと思っています。強度的にも強いといわれるM-STEELでも切れることはあるので(笑)、そのリスクをなくせるだけで使う価値ありだと思うし、もちろん音もぜんぜん問題ないです。できることなら、ライヴ何本目で切れるのか試してみたい気もします(笑)。

 

なんと! 90日保証!!

このパラダイム、どれだけ耐久性に自信があるのかを証明しているのが“90日間保証”だ。通常使用において、購入後、90日未満で弦が切れた場合、なんと商品を交換してくれるという。破損した弦(セットに含まれる全弦とパッケージ)、お買い上げレシート(原本)を送り、アーニーボールの定める規定に該当すると、新品の弦に交換してくれるとのことだ。くわしくは、下記まで。

http://www.kandashokai.co.jp/paradigm/warranty.html

 

問:株式会社神田商会(http://www.kandashokai.co.jp/

 

このパラダイム・スリンキーの試奏紹介記事は、WeROCK 060(2017年8月12日発売号)にも掲載しています。