【楽器企画】音質向上委員会〜ファーマン編

ミュージシャンにとって、よりいい音で楽器を弾きたいというのは当然の思い。そこで今回は“音質向上委員会”と題して、特別な改造などをしなくても、手軽に音質を向上するアイテムに注目してみた。まずは、マニアックに電源についてのレポートをお届けしよう!
※WeROCK 070の掲載記事より。

 

電源を変えて音質向上!!〜ファーマン編

まずは、プロ愛用のファーマンをチェック!

高崎 晃(ラウドネス)

▲最上段に入っているのが、パワー・コンディショナーのP-1800 PF R Jだ

 

ANCHANG(セックス・マシンガンズ)

▲ラック内には、パワー・コンディショナーのPL-8 J シリーズⅡが見える

 

及川樹京(マーデラス)

▲M-8x(パワー・コンディショナー)がセットされた及川樹京のラック

 

Seiji(D_Drive)

▲フロア・タイプのPOWER FACTOR PRO(パワー・コンディショナー)を愛用するSeiji。
なかなかのレア・モデル!?

 

Shu(TSP)

▲最上段にパワー・コンディショナーのP-1800 PF R JがセットされたShuのラック

 

「まさしく楽器が意図する音を出してくれます」

ラック・エフェクター全盛の時代、プロのラックの中には、かならずと言っていいほど見かけてきたファーマンの電源分配器。そもそも、なぜにファーマンを使用するのか、輸入代理店である日本エレクトロ・ハーモニックス株式会社に聞いてみた。
——もともとファーマンは、どういう理由で電源を開発することになったんですか?
日本エレクトロ・ハーモニックス(以下、EH):ジム・ファーマンという方が設立した会社ですが、もとは1Uのパラメトリック・イコライザーを作るところからスタートしました。その後、スタジオ機材に関わるようになって、PL-8(ラック用照明)を作ったんです。そこから派生して電源を作って、シフトしていった会社なんです。
——安定化電源、パワー・コンディショナー、パワー・ディストリビューターの違いは、どこになるんですか?
EH:安定化電源というのは、電圧を安定させる機材です。日本でいえばコンセントの電源はAC100vなんですが、使用する場所で電圧が違うんですよね。自宅とライヴ・ハウス、さらにスタジオで違うのは当たり前になってるんです。とくに電気を多く使ってるところというのは電圧が低かったり、古い雑居ビルなど変電設備がよくないところなどはエレベーターが動くたびに電圧が上がったり下がったりするんです。電圧は変動するものなので、たとえばデジタルものではそれが原因でフリーズしたり音質が変わってしまったり、いろんなことが起こり得る。それを防ぐために、電圧を安定化して供給してあげるのが安定化電源です。パワー・コンディショナーとディストリビューターに関しては、ファーマンの場合、電源の状態をよくしてあげるものを指します。で、テーブル・タップ・レベルのもので簡易的なモデルで電源を分けることをメインにしてるタイプをパワー・ディストリビューターとしています。
——どのモデルにも共通している部分はあるんですか?
EH:電源のノイズを取ったりキレイにしたり、接続した機械を保護したりすることに関しては、だいたい、どの機種にも入ってますね。その中で、電圧を安定化させるのが安定化電源ということです。

安定化電源の最新モデル

ファーマン M-8x AR J ¥100,000+税

〈仕様〉 ●基準入力電圧:100vAC 50/60Hz ●規定入力電圧範囲:81vAC〜118vAC ●出力電圧:100vAC ±5v ●主力定格電流:入力電圧が103vの場合に15A ●最大供給電流:15A ●アウトレット数:9 ●出力電流ディレーティング:136mA/v、最小12.3A @ 81v ●エクストリーム・ヴォルテージ・シャットダウン作動条件:62vAC以下 or 125vAC以上 エクストリーム・カレント・シャットダウン作動条件:10サイクル @ 100A、200A以上では1サイクル ●電圧メーター精度:±5vAC ●ノイズ減衰量:-16dB @ 10kHz、-33dB @ 100kHz、-48B @ 400kHz ●外形寸法:483(幅)×44(高さ)×270(奥行き)mm ●重量:7.15kg ●電源ケーブル:3m

 

▲100vに安定させるM-8x AR Jとともに、120vに安定させるM-8x ARも同時発売。価格は同じ¥100,000+税だ

M-8x AR Jのインジケーター部。105vで入ってきていることを表わしている

 

——ということは、M-8x AR Jにもコンディショナー的なものも入っている?
EH:入ってなくはないです。ただ、それぞれにランクがあって、P-1800 PF R Jなどは、かなりランクが上のモデルになります。キレイにする具合も、各機種でランク分けされているんです。
——逆に言うと、P-1800 PF R Jには安定化電源は入っていない?
EH:入ってないですね。P-1800 PF R Jは、“パワー・ファクター・テクノロジー”と呼ばれる機能も搭載していて、例えばライヴでの照明などを使って一時的に電力消費が上がった時など、パワー不足によりアンプの音質が劣化してしまうんですね。それを避けるために、必要な電力を貯めながら供給してくれるんです。たとえば、出力が大きなアンプとか、PAのアンプなどで大きな音をドンと出す際に、大きな電力を必要とする時があるんです。その時、大きな電力を電源からもらわなきゃいけないんですが、壁から取れる電力というのは、瞬間的なものは抑えられてしまうんです。そうすると大きな電力が必要な低音が、じゃっかん弱くなってしまう。それで音が軽くなってしまったりするんです。そういう時のために、このモデルの中に電気を貯めておく機能が内蔵されている。で、壁のコンセントからもらいきれない分を貯めた分から補助してアンプのほうに送れるんですね。そうすると機材のほうが必要なだけ電力をもらえる。そうすると、大電力のアンプなどは、低音域の締まりぐあいや迫力がぜんぜん変わってきます。

パワー・コンディショナー

ファーマン P-1800 PF R J ¥90,000+税

〈仕様〉 ●作動電圧:85〜129vAC ●最大供給電流:15A ●アウトレット数:9 ●外形寸法:483(幅)×44(高さ)×305(奥行き)mm ●重量:5.9kg ●電源ケーブル:3m

P-1800 PF R Jのインジケーター部。写真では、103vで受けていることが表示されている

P-1800 PF R Jのフロントには、USBでの充電が可能な端子が備えられている

 

——とすると、たとえばギタリストは、安定化電源であるAR Jを使ったほうがいいのか、それともPF R Jを使ったほうがいいのか、どちらなのでしょう?
EH:大型アンプを使っているギタリストならば、PF R Jの右側2つがアンプ用の電源になってるので、そこから取るのが音色的にはいちばんいいですね。このモデルの機能により、アンプの性能や音質を最大限に発揮できます。ただ、元となる壁のコンセントが、あまりにも状態が悪くて不安定な場合は、AR Jのほうがいい時もあります。なので、じつは両方使うといちばんいいんです(笑)。まずは壁のコンセントからAR Jに来て電圧を安定させて、次にPF R Jを通してアンプに行き楽器に必要な電力を充分に供給してあげる、と。
——それはゼイタクすぎる使い方ですね(笑)。
EH:なので、そういう使い方をする可能性があるのであれば、電源が不安定なライヴ・ハウスやスタジオが、AR Jを持っていてほしいんですよ。もし、2台持てるならば、アンプなどの出力の大きな楽器をPF R Jにつないで、プリアンプやデジタルもののエフェクターなど電圧の影響を受けたりしやすいものはAR Jに接続するという使い分けもありですよね。
——PF R Jは、アンプ用のアウトの他、3口ずつに分かれてますね?
EH:これは、3口はアナログ、3口をデジタル用という使い方ができるようにですね。デジタルの機材というのは高周波を扱ってますよね。本来はその高周波のノイズが電源のほうに戻っていかないように設計されているはずなんですが、万が一、戻ってしまった場合、同じ口にアナログの機材がつながっていると、そこに回りこんでしまいノイズの原因になったり音が濁ってしまう可能性があるので、このモデルでは分けて出力できるようになってるんです。この3口と3口の間に、デジタル・ノイズを取るフィルターが入ってるんですね。

パワー・コンディショナー

ファーマン M-8X2 ¥16,000+税

〈仕様〉 ●電源電圧:100vAC ●最大供給電流:15A ●アウトレット数:9 ●外形寸法:483(幅)×44(高さ)×95(奥行き)mm ●重量:1.8kg ●電源ケーブル:1.8m

 

——同じパワー・コンディショナーという括りの、M-8X2に関しては、いかがでしょう?
EH:いちばんの特徴は、安いということでしょう。もちろん、ノイズ・フィルターとか保護する回路も搭載されていますが、PF R Jに比べると簡易的なものになってます。ノイズ・フィルターのランクでいうと、M-8X2<M-8x AR J<P-1800 PF R Jぐらいの順でよくなっていますね。
——じっさいに、アマチュア・レベルのプレイヤーが使っても音の違いや変化は実感できますか?
EH:パワー・コンディショナーの場合、真空管アンプからのノイズも変わってきます。“サ〜”と言ってるノイズ自体のレベルが変わると、けっきょく音色もクッキリと出てくるので弾きやすいし、クリアになります。歪みもクリアになるので、まさしく楽器が意図する音を出してくれるんですよ。楽器が意図した音というのは、ノイズが入った音じゃないですからね。とくに真空管アンプは電圧の影響を受けやすいので安定化電源も効果的なんです。出す場所によって、“これが同じアンプか!?”と思うことがあるじゃないですか? 電源の問題でそうなっているのであれば、そこはクリアできます。もちろん、もともとがクリーンな電源で安定しているというのであれば実感できないでしょうけど、たとえば家でレコーディングしている時に別の部屋で何かの家電を使ったら“プチ”っとノイズが入るというのも防いでくれるんです。それは、ノイズ・フィルターなので、ランクに違いがあるものの搭載されているモデルには共通しています。そういう部分で悩んでいる方も多いですからね。で、とくに音質にこだわる方には P-1800 PF R Jですけど、これの場合、自宅でアンプを鳴らさずにDTMだけで使ってるという方には効果が薄いんですよ。そういう人には、M-8x AR Jがオススメです。自宅の場所によっては電圧が低かったり、マンションなどにおいては電圧が上がったり下がったりしますので。


テーブル・タップ・タイプのパワー・コンディショナー

ファーマン PST-8D ¥27,000+税

〈仕様〉 ●電源電圧:100vAC ●最大供給電流:15A ●アウトレット数:8(すべてのACライン・ノイズ・フィルターとサージ回路を通過) ●保護回路:エクストリーム・ヴォルテージ・シャットダウン・シリーズ・マルチ・ステージ・プロテクション、グラウンド・ノイズから保護 ●外形寸法:500(幅)×70(高さ)×95(奥行き)mm ●重量:2.1kg ●電源ケーブル:2.4m

PST-8Dは、アウトレットを8口装備している。本誌と比べてみて、そのサイズ感がわかるだろうか?

 

ファーマン SS-6 ¥7,980+税

〈仕様〉 ●電源電圧:100vAC ●最大供給電流:15A ●アウトレット数:6(すべてEMI/RFIフィルターとサージ回路を通過) ●コントロール:電源オン/オフ・スイッチ ●外形寸法:62(幅)×33(高さ)×310(奥行き)mm ●重量:1.2kg ●電源ケーブル:4.5m

ファーマン SS-6B ¥7,980+税

〈仕様〉 ●電源電圧:100vAC ●最大供給電流:15A ●アウトレット数:6(すべてEMI/RFIフィルターとサージ回路を通過) ●コントロール:電源オン/オフ・スイッチ ●外形寸法:85(幅)×45(高さ)×235(奥行き)mm ●重量:1.25kg ●電源ケーブル:4.5m

SS-6(写真)とSS-6Bに備えられた電源のオン/オフ・スイッチ。なお、この2機種はサイズ以外は同じ仕様だ

 

——使用する環境によって選ぶということですね。そして、最後はテーブル・タップですが、こちらは?
EH:いちばんの違いは、ラック・タイプかテーブル・タップ・タイプかという形状ですね。たとえば、PST-8Dに関しては、コンディショナー的な機能はP-1800 PF R Jと同じレベルのものが入ってます。テーブル・タップなんですが、コンディショナーも搭載されているんですね。SS-6BやSS-6に関しては、M-8X2ぐらいのパワー・コンディショナーのレベルがあります。
——ということは、電気店で売ってるタップとはわけが違うということですね?
EH:ぜんぜん違います。PST-8Dは異常な電圧がかかった時は回路をシャット・ダウンして機器を守ったり、ACライン・ノイズを抑制してくれる機能も搭載されてますし、SS-6とSS-6Bにもサージ・フィルターやEMI/RFIフィルターなども入ってますからね。
——では、ファーマン製品のもっとも優れているポイントというと、どこになると思われますか?
EH:やっぱり安心感と安定感でしょうね。なにか起きた場合でも、少なくとも電源じゃないということは言えますから。それが、じっさいにプロの現場で、あれだけ使われているという結果につながってると思われますね。

 

問:日本エレクトロ・ハーモニックス株式会社
http://www.electroharmonix.co.jp/furman/index.html