禁断の選択!? 〜グレッチでMETALを奏でろ!

ギブソンやフェンダーと並び、ギターの歴史を作り上げてきたグレッチが、創業135周年を迎えた。ヘヴィ・メタルやハード・ロックでは、あまり愛用ギタリストがいないと思うが、だからこそ、今、グレッチでメタルを弾けば、かなり個性的なギタリストになれるチャンスでもある。そこで、じっさいにグレッチがメタル・サウンドに合うのか検証!! ※WeROCK 065の掲載記事より。

 

グレッチを知ろう!!
会社創立から135年という長い歴史を持つグレッチ。大きめのホロウ・ボディから生まれるふくよかな響きを持つ低音やビグスビー・アームによる独特の大きなヴィブラートが特徴で、カントリー・ギターのチェット・アトキンスらの愛用による影響もあり、50年代以降、カントリーやロックン・ロールを中心に、一躍アメリカン・ギターの代表ブランドのひとつとして知られるようになった。
70年代に入ると、AC/DCの故マルコム・ヤングによってグレッチは新たなシーンでの存在感を示すことになる。マルコムはマーシャルとのコンビによって極上のドライヴ・サウンドを作り出したのだ。それまでギブソンやフェンダーといったソリッド・モデルに比べ、グレッチは豊かで大きめのホロウ・ボディを特徴とするだけに“ハイ・ゲイン、大音量のドライヴ・サウンドには不向き”という定説を一蹴。グレッチの持つボトムの豊かなトーンとホロウ・ボディ独特の空気感を持ったオーバードライブ・サウンドは、リード・ギタリストのアンガス・ヤング(写真)によるギブソンSGのソリッドなトーンを包むようにカヴァーし、AC/DCサウンドの核として重要なバランスを作りだしていた。
最近では、ホワイト・ファルコンをメインにスプロ・アンプとオーバードライブを使いパワー系かつ粒立ちのいいトーンを鳴らすリチャード・フォータス(ガンズ・アンド・ローゼス)、マルコムを継承するようなコード・サウンドのマーク・トゥワイト(リッキー・ウォリック・バンド)、ファズ系ディストーションとアームによってフィードバックなどアグレッシヴな歪みを鳴らすジャック・ホワイト(ザ・ラカンターズ/ザ・ホワイト・ストライプス)、ジョン・フルシアンテ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)などグレッチによる新たなドライヴ・サウンドが拡がっているのだ。メタルではないが、日本でいえば横山 健(ハイ・スタンダード)が、グレッチとロックの融合を広めたギタリストだろう。
そんなヴィンテージなイメージのグレッチも、最近では、新開発のコンデンサーである“スクイーズボックス”ペーパー-イン-オイル・キャパシターを搭載したり、ヴォリュームを絞った際にもフル・ヴォリュームと変わらないトーンを実現するトレブル・ブリード・サーキット、トーンがフルの際に完全にバイパスされるノーロード・トーン・ポットなどなど、いろいろな技術で現代の音楽に対応している。
では、135年の歴史を持つグレッチで、ヘヴィ・メタルを弾いたらどうなるのか!? 今回の試奏記事をじっくりと読んでほしい。きっと、WeROCK読者もグレッチが欲しくなるぞ!〈文:谷川史郎〉

 

グレッチのシリーズ構成は?

グレッチには数多くのモデルがラインナップされているが、価格帯で分けると図のようになる。ただ、モデル名で分けると今回試奏しているジェットは、プロフェッショナル・コレクションにもエレクトロマティック・コレクションにもラインナップされるなど、価格帯にまたがるものもある。また、他にもホロウ・ボディやセンター・ブロックなど、ボディ構造の違いでも分類できるが、そのホロウ・ボディもプロフェッショナルとエレクトロマティックから発売されている。

 

“Jet”最新モデルや“Jet”+ビグスビーでMETALを弾く
では、じっさいに試奏といってみよう。まずはジェットと呼ばれるモデルだ。ジェットとは、ギブソンやフェンダーなどのソリッド・ギターに対抗すべく、50年代に誕生したモデル。グレッチならではの中空のボディ構造を持ちつつも、小ぶりなボディ・サイズによる弾きやすさで人気を博している。コントロール類やピックアップなども、グレッチならではの特色が光るモデルだ。先程の表にあるように、G6228FMはプロフェッショナル・コレクション、G5220G5230Tはエレクトロマティック・コレクションというシリーズにそれぞれ分類される。
最初からハイ・クラスなモデルを弾くより、まずはエレクトロマティック・モデルのG5220から弾いてみよう。持ってみると、中に空洞を持ったチャンバード構造のためか、レスポール的な見た目の印象よりもかなり軽い。バランスもよく、立っても座っても弾きやすいことがわかる。今回は、メタルを弾けるのかということなので、いきなりアンプをオーバードライブさせて弾いてみると、高域のトーンに特徴があることがわかる。スコーンと抜けてくるハイが特徴で、どこかシングルコイルに近い印象もあり、かなりブライトだ。かといって低域がないわけではなく、ローをしっかり出しつつハイがヌケるトーンなので、中域を削った印象、すなわちメタリックなトーンを持っている。強引にメタル度を高く書いてるわけではなく、素のトーンがそうなのだ。たとえば、ロー・コードのEを弾くと、ヌケがいいので、全弦がクリアに出る。これなら、バンド・サウンドの中でも埋もれないだろうし、ベースとの混ざり具合もいいはずだ。

G5220 Electromatic Jet BT Single-Cut with V-Stoptail ¥80,000+税(ギグ・バッグ付き)

〈仕様〉 ●ボディ:チャンバード・マホガニー・ボディ・ウィズ・アーチド・メイプル・トップ ●ネック:マホガニー ●指板:ウォルナット、22フレット ●ピックアップ:Blacktop Broad’Tron×2 ●コントロール:ヴォリューム1(フロント・ピックアップ)、ヴォリューム2(リア・ピックアップ)、マスター・ヴォリューム、マスター・トーン ●ブリッジ:Anchored Adjusto-Matic ●テイルピース:“V”ストップ・テイルピース ●カラー:ブラック、カジノ・ゴールド、ダーク・チェリー・メタリック(写真)

このイメージを忘れないうちに、ハイ・クラス・モデルのG6228FMにいってみよう。先ほどのモデルより、値段にして4倍近いわけだが、フレイム・メイプルの出方を見るだけで納得! 持ったボディ・バランスはそのままで、ネックの握りが、こちらのほうがやや細く感じられた。だからといって薄いタイプではなく、しっかりとしたUシェイプで、おそらく指板エッジの仕上がり方などがしっかりと作られているのでしっくりきたのではないだろうか。音のほうは、G5220よりもミッドを足したパワー感が感じられる。1〜2弦の12フレットあたりを弾くとわかりやすく、先ほどよりもまろやかなトーンも出せる。と言いつつ、コードを弾いた時のヌケはそのままだから不思議だ。指板の違いも音に影響してるのだろうし、アルニコ・ピックアップの違いも大きいのだろう。
2本を比べてみると、もちろんG6228FMのほうが、とうぜんトーンや弾きやすさ、ヴィジュアルの素晴らしさを持っているのだが、逆に言うとG5220がこの値段で十二分なクオリティだったことに驚かされる。続いてはトレモロ付でブラック・トップ・フィルタートロン・ピックアップを搭載したJetがG5230Tだ。ビグスビー・ライセンスのトレモロだが、なめらかなかかりはクセになる。ヴィブラートのぐあいが絶妙なのだ。

G6228FM Players Edition Jet BT with V-Stoptail ¥375,000+税(ハード・ケース付き)

〈仕様〉 ●ボディ:ラミネイテッド・フレイム・メイプル・トップ+マホガニー・バック ●ネック:マホガニー ●指板:エボニー、22フレット ●ピックアップ:Broad’Tron BT65×2 ●コントロール:ヴォリューム1(フロント・ピックアップ)、ヴォリューム2(リア・ピックアップ)、マスター・ヴォリューム、マスター・トーン ●ブリッジ:Anchored Adjusto-Matic ●テイルピース:“V”ストップ・テイルピース ●カラー:バーボン・ステイン(写真)、ダーク・チェリー・ステイン

 

 

G5230T Electromatic Jet FT Single-Cut with Bigsby ¥98,000+税(ギグ・バッグ付き)

〈仕様〉 ●ボディ:チャンバード・マホガニー・ボディ・ウィズ・アーチド・メイプル・トップ ●ネック:マホガニー ●指板:ウォルナット、22フレット ●ピックアップ:Blacktop Filter’Tron×2 ●コントロール:ヴォリューム1(フロント・ピックアップ)、ヴォリューム2(リア・ピックアップ)、マスター・ヴォリューム、マスター・トーン ●ブリッジ:Anchored Adjusto-Matic ●テイルピース:ビグスビー・ライセンスドB50ヴィブラート・テイルピース ●カラー:ファイヤーバード・レッド、エアライン・シルヴァー(写真)

 

 

グレッチの特徴であるマスター・ヴォリューム。この位置に取り付けられているのも個性的だ

G5220やG5230T、G5420TGのストラップ・ピンは、外れにくくなる独自のネジ式タイプとなっている

ネックの握りは、ほぼすべて共通のUタイプだ。ガッシリとした感触で、安定したフィンガリングを約束

G5230Tは、ビグスビー・ライセンスのトレモロを搭載。他のトロモロとは違った使い心地が魅力だ

グレッチらしく、ピックアップ・セレクターに金属製のノブが採用され高級感を醸し出している

 

ビグスビーの魅力
現代のトレモロ・ユニットといえば、ロック式のフロイド・ローズや、シンクロナイズド・トレモロが一般的だが、もうひとつの歴史を飾るトレモロが、このビグスビーだろう。ビグスビーは、カリフォルニアの天才的な発明家ポール・ビグスビーによって開発されたユニットで、バイクを製作していた彼に、ギタリストのマール・トラヴィスが実用的なヴィブラートの製作を依頼したことが始まりだった。そして、開発されたトレモロは、世界中のギタリストのプレイ・スタイルを大きく変貌させ、1955年以降にはグレッチのギターにマウント。そのサウンドはパンク、フォーク、カントリーからロックまで幅広いジャンルで聴くことができる。現在では、多くのギター・メイカーにも採用され、楽器に精巧さ、機能性、美しさを与え続けている。

 

135周年記念モデルでMETALを弾く!!
次はホロー・ボディのモデルにいってみよう。まずは、G5420TGから。生音で弾いてみると、やはりアコースティック・ギター的な音が出てくれる。アンプにつないでクリーン・トーンで弾けば、アコースティックなサウンドを出してくれるのだ。いやいや、今回はメタルがテーマだから、ドライヴさせないと。はたして、メタルに対応できるのか……という不安もありつつ弾いてみると、どうしてどうして! 先ほどのモデルと同様のブライトでヌケのいいトーンが出てくれる!  中域の感じが、ジェットとは違い、なんと表現したらいいのか……中域までもブライトなのだ。歪ませて弾いても、“ホロー・ボディだぞ”といういい意味での主張はなく、ミッドの感じがジェットとは違う。さらに、今回の機種のなかで、もっとも高価なG6118T-135を弾いてみると、音を出してみてビックリ! ヴィジュアル的には、いちばんメタル度低めかもだが、音的にはいちばんパワフルでメタリックだった。ブライトなのだが、ミッドもあり、今回の5機種のなかではフラットにも感じた。ビグスビーも、タッチが柔らかくてアーミングやヴィブラートがしやすい。弾き心地は、ネックの印象は全体的には同じで、ガッチリしたUタイプ。ボディが大きいので、座って弾きにくいかと思ったが、逆にその大きさが右手に安定感を出してくれるからおもしろい。ただ、15フレット以上のポジションで速弾きをやろうと思ったら、かなりガッツがいるぞ〜。
という合計5本のグレッチをメタルに合うかというテーマで弾いたのだが、どのモデルもパワフルさもありつつ、とにかくブライトなのでリフを弾いた時の気持ちよさや音ヌケのよさがすばらしかった。故マルコム・ヤングが、グレッチを使ってた意味が、ようやくわかった気がする。

 

G5420TG Electromatic 135 Anniversary LTD Hollow Body Single-Cut with Bigsby ¥185,000+税(ギグ・バッグ付き)


〈仕様〉 
●ボディ5プライ・メイプル ●ネック:メイプル ●指板:コンプレスド・エボニー、22フレット ●ピックアップ:Blacktop Filter’Tron×2 ●コントロール:ヴォリューム1(フロント・ピックアップ)、ヴォリューム2(リア・ピックアップ)、マスター・ヴォリューム、マスター・トーン ●ブリッジ:Adjusto-Matic,Secured Compressed Ebony Base ●テイルピース:ビグスビーB60Gヴィブラート・テイルピース ●カラー:2トーン・ダーク・チェリー・メタリック(写真)、カジノ・ゴールド

 

 

G6118T-135 Players Edition 135th Anniversary with Bigsby ¥400,000+税(ハード・ケース付き)

〈仕様〉 ●ボディラミネイテッド・メイプル・トップ+ラミネイテッド・マホガニー・バック ●ネック:メイプル ●指板:エボニー、22フレット ●ピックアップ:Filter’Tron×2 ●コントロール:ヴォリューム1(フロント・ピックアップ)、ヴォリューム2(リア・ピックアップ)、マスター・ヴォリューム、マスター・トーン ●ブリッジ:Rocking Bar with Pinned Ebony Base ●テイルピース:ビグスビーB6CP・ストリングスルー・ヴィブラート・テイルピース ●カラー:2トーン・カジノ・ゴールド(写真)、ダーク・チェリー・メタリック

 

グレッチならではといえる極厚のボディを持ったモデルが、G6118T-135とG5420TGだ。Jet(右)とG5420TGを比べるとこのとおり。厚さだけではなく、ボディ自体のサイズがすごい!

G6228FMとG6118T-135のペグは、ロック式のタイプを採用。弦交換が楽になるのはうれしい

ホロウ・ボディならではの響きを出してくれるfホール。生音で弾くと、その魅力がよくわかる

 

グレッチの名機紹介
今回、試奏しているモデルの他にも、もちろんグレッチには魅力的なシリーズが多数発売されている。なかでも注目は、往年の名機と言われるモデルだろう。ここでは、その中から3機種を紹介しよう。
まずは、ファルコンと呼ばれるモデル。こちらは、グレッチのギター開発者で歴史的モデルを生み出したジミー・ウェブスターのデザインした初代ホワイト・ファルコンである1955年の仕様を限りなく再現したモデルだ。続くのは、ビートルズのジョージ・ハリスンが使用していたことでも知られる1962年の仕様を再現したモデル、G6122T-62。このモデルの最大の特徴は、1〜3弦と4〜6弦の2つに分かれたストリング・ミュートだろう。これは、ボディ後方にある2つのミュート・スイッチを倒すことで、ブリッジとリア・ピックアップの間にあるストリング・フォームが弦に触れてミュートされるという革新的なシステムだ。
もう1本は、いかにもグレッチ、という印象のG6120T-59だ。これら3本に共通して、グレッチ新開発の“Squeezebox(スクイーズボックス)”ペーパー-イン-オイル・キャパシター(コンデンサー)が採用されている点に注目!

G6136-55 VS Vintage Select Edition ’55 Falcon ¥580,000(+税)

G6122T-62 VS Vintage Select Edition ’62 Chet Atkins Country Gentleman ¥480,000(+税)

▲G6120T-59 VS Vintage Select Edition ’59 Chet Atkins ¥480,000(+税)

試奏:WeROCKメタル試奏隊

問:株式会社神田商会
http://www.kandashokai.co.jp/flos/gretsch/