強者達によるアンチェインド、セカンド・アルバムを発表!

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元44マグナムのBANを中心に、日本のハード・ロック/ヘヴィ・メタル・シーンの強者達で結成されたアンチェインドが、昨年、リリースした5曲入りアルバムに続いてフル・アルバムを完成させた。
前作で聴かせてくれたハード・ロックの枠に収まらないサウンドは今作も健在。
パーソナル・インタヴューで、その最新作の秘密に迫ってみよう。

『Illusion Or Truth』トレイラー映像


Eizo〈vocal〉
これが自分の作りたかった
大満足のアルバム

——セカンド・アルバム名義になってますが、フル・アルバムとしては初ですね?
Eizo
:前作の『ROCK THE NATION』が5曲入りで、ライヴをやりながら曲をどんどん増やしていくというのがアンチェインドのやり方なんだ。気づいたら、現時点で18曲ぐらいあるのかな?
前作に収録されなかった曲をレコーディングしようとなって、アルバムは10曲入りだけど13曲録って、そこから選曲したという感じ。
——このメンバーでのイメージからすると、Eizoさんとしては低めのキーの曲が多いと思ったんですね。
Eizo
:最近は、バンドによって分けてる部分もあるんですよ。高いキーでガンガンいくんだったらEizo Japanでやればいいわけだし、もう少しコミカルなライヴをやりたいなら練馬マッチョマンでいいかなって思うんです。
アンチェインドはアンチェインドで、坂本英三というヴォーカリストを知らない人にも楽しんでもらいたいから、あえてどんな歌でもOKという感じにしてるんですね。僕は、なんでも受け入れられるから、これを自分なりにどうできるかなっていうふうに考えるんです。それに、今までやってきたこととは違うことをやりたいっていうのがいちばん大きい。今までやってきたことをやるんだったら、今までやってきたメンバーとやればいいわけで。例えばアニメタル的なことやるんだったら、あのメンバーじゃないと、あれ以上のことはできないから、やる必要はないんですよ。
アンチェインドは、これからどんどんアンチェインドらしいものを作っていけばいいと思ってます。もちろん、もっと激しい声がほしい人も、もっともっとメロウで泣かしてほしい人もいるだろうけど、それを全部、拾い上げることは無理じゃないですか。それよりも自分達が作り上げてきた音楽が好きな人を集めていきたい。アルバムを聴いてもらえれば、1本、筋が通ってることがわかると思うんですね。シャウトの有無とか声の強さや音域というのは、あくまでも表面上のもので、それよりもバンドの作る音楽というものがすごく大事になってくるんです。僕は、このバンドであまりシャウトをする気もなくて……いずれ出てくるかもしれないですけど、例えばエンディングで必ずシャウトをするようなスタイルは、アンチェインドでは違う気もするんです。それは、ライヴの時のスペシャルなものであったりしますね。
——アンチェインドのイメージが出来上がってきて、作り上げたものということですね?
Eizo
:“この曲だったらこの世界観だろう”というのもあるし、アンチェインドとして1曲1曲いろんな色があると思うんです。
——「IS THIS LOVE?」などのように前作でも聴かせてくれていた昭和歌謡っぽい歌メロというか懐かしいメロディも聴けますね。
Eizo
:「IS THIS LOVE?」は、アンチェインドの初期というか、もともとBANさんが持っていた曲で作詞もBANさんなんですね。だから、この曲はBANさんが持っている音楽性のひとつのような気がするし、完璧にBANさんの世界観が出てる曲だと思います。
——「HOLY LONELY MAN」もロカビリーというか意外な感じを受けました。
Eizo
:これも初期の曲ですね。前作にもスカのリズムがあったりして、このあたりの自由さというのはアンチェインドが始まった時、BANさんから送られてきた楽曲を聴いて感じていたんですね。アンチェインドはメタルの括りにいるかもしれないけど、なんでもやれるメンバーが集まっていて、それってひとつの武器なのかなって。KENTARO君が強烈なギターを弾ける、僕が超絶なシャウトができるっていうところを持ち寄ってやるよりも、引き出しが多いというところを武器にしたいバンドなんですよね。その4つの集合体は、必ずいい音楽を作れるはずだから、そこで勝負したいんです。
「STRONG AND TOUGH」は、もっとエグくすることもできるし攻撃的に歌うこともできるけど、そこはやらなくていいんじゃないって思うんです。せっかくこれだけ才能のある4人で新しいことを作り上げられるんですからね。
——これまでのイメージを出さないのが新しいみたいな?
Eizo
:昔と変わったところというと、曲に合ったものが見えてきているかなって感じはしますね。アニメタルだと、原曲をさらに破壊してやっていってたけど、アンチェインドでは良質な楽曲を、より仕上げるっていうところで今はそのほうが僕は楽しいですね。そのほうが、70代になってもできるじゃないですか。ヘヴィ・メタルって、けっこうアスリートなミュージックなわけで、そこに挑戦してやるのもありだけど、アンチェインドは20年先を見据えてるのかもしれない。歌えなくなったら、もう終わりですからね。
それに、アンチェインドって、このメンバーだからこうしないといけないというふうな義務感がないんです。“こういうものを求めてる人達がいるから、そこに応えなきゃ”というのがまったくなくて。BANさんが作るものをみんなで味付けして、4人でしかできない音の集合体にして、4人でしかできない空気感のライヴをやるというシンプルなことなんだけど、もうブレる必要もないし健全なんです。このキャリアになって、ようやくリラックスしてやれてるというか。で、メンバーもみんなバンドのことをしっかりと考えてるし、とくにBANさんは思い入れも意気込みも強いと思うんです。BANさんが“こういうものをやったら楽しいよね”とイメージしてくれる限り、アンチェインドは永遠に続くということです。
——今回のフル・アルバムは、Eizoさんにとってどういうふうに映ってますか?
Eizo
:これが自分が作りたかったアルバムだなって思ってます。聴き込むのもいいし、BGMで流してもいい。生活の中にずっといてくれるアルバムという感じがしていて、僕は大満足ですね。快適指数120で、バランスもよくて長く聴けるアルバムを作れたと思います。それに、この年齢で、このキャリアで、このアルバムが出せたというのが、自分のキャリアが少し伸びた気がするんです。これまで何度かノドのトラブルもありながらも、こうして歌い続けてこられてるので1年でも長く続けていきたいですからね。


BAN〈bass〉
“これがアンチェインド”と
胸を張って言えるアルバム

——前作から1年たちますが、今回のアルバムを作るうえでバンドの方向性もわかってきつつ制作に取り掛かったんですか?
BAN
:バンドの方向性というか、このバンドに関しては曲作りの時にこだわりを持って作りたくないというがあるんですね。カテゴライズしちゃうというか、バンドって“こういうものにしなきゃいけない!”というのがあったりするじゃないですか? そうするとそこにそぐわない曲が外れていってしまうわけで、そういうのをなるべくなくしたいと思ってたんです。
昨年、ツアーをやったことで、このバンドはどんな曲をやってもイケるかなという感じがすごくあったんですね。けっきょく、どんな楽曲を持っていっても、Eizo君、KENTARO君、A-Joeがアンチェインドの曲にしてくれるんですよ。前作を作ってツアーをしたことで、それをすごく感じたので、曲を作るのが楽になって、“これは合わないから外そう”というのがなかったんです。
——なんでもありな?
BAN
:なんでもありだし、よくなかったらやめて、よかったらやればいいし……みたいな(笑)。すごく気楽な感じで曲作りをさせてもらえてるんです。なので、この曲はアンチェインド用、これは違う時に使おうというふうにもしてないんですね。曲ができたらデモを録って、みんなに送ってる感じです。
——前作同様、今回もハード・ロックという枠に収まらないヴァラエティに富んだ楽曲がありますね。
BAN
:Eizo君とも話していたんだけど、自分達の子供の頃って、いっぱい歌番組がやっていたじゃないですか。カラオケがあった時代でもないけど、一番だけ歌詞を覚えたりして、その頃の影響とか受けてると思ってるんです。
これまではアメリカン・ハード・ロックだったりの影響を出して来たけど、いい音楽っていっぱいあるんですよ。例えばスカというジャンルもホントにカッコいいし、前作に入っていた「SWEET PAIN」なんか本格的にスカをやってる人からしてみたら“なんちゃってスカ”かもしれないけど、素晴らしい音楽がたくさんあるわけでね。そういうのをやってみたいという単純な発想というか、いろんな影響を受けたものを1回、全部出しきってみようと思ったんです。全部、出し切ったら僕に何が残るんだろうって(笑)。
——これまでのバンドでは、そこまで出し切ろうとは思っていなかったんですか?
BAN
:バンドのカラーに合わせる意識がすごく強かったと思うんです。たとえばグランド・スラムの時は“これはグランド・スラムっぽくない”みたいな曲ができた時は、こっちに置いておこうってやっていたんですね。とうぜんアンチェインドもヘヴィ・メタルをやってきたメンバーだからそういう印象で見られると思うんですけど、音楽ってそれだけではないという気持ちがあるんです。それほど“こうじゃなきゃいけない”っていうものもないし、いろんなタイプの曲が出てくる感じで、じつはあんまり意識してないんですよ(笑)。
——アルバムでは最初の2曲が新曲とのことですが、そう聞くと、他の曲がそろった時に、もう少しメタリックなものを必要としてこの2曲を作ったんですかね?
BAN
:作らなきゃというか必要かなとは思いました。ハードなリフで疾走感のある“いってまえ!”みたいな雰囲気の楽曲も、必要かなというのもあってね。前作の時も、「ROCK THE NATION」がいちばん最後にできたんですけど、あれも、“こういう曲、必要だよね”って作りましたから。
——その前半のハードな楽曲でも、それほどEizoさんが高いキーで歌ってるわけではないじゃないですか。そのあたりは、BANさんは意識したんですか?
BAN
:そうでもないですね。Eizo君は音域も広いし、どのキーで歌っても“坂本英三!”という声になるから意識する必要はないんですよね。ひょっとしたら、次はすごいヘヴィ・メタルな楽曲ができるかもしれないし(笑)、その時にできたものをメンバーに渡してるだけなんです。
——曲作り的には、たとえばリフから作ったりするんですか?
BAN
:いや、昔からそうなんですけど、僕、楽器を持つと作れない人なんです。ギターでコードを弾きながら作るとコードを追ったメロディになっちゃうから、全部、鼻歌で作るんです。歌も鼻歌だし、ギター・リフも鼻歌で作るんです。
最近のスマホには、便利なヴォイス・レコーダーというのがあるので(笑)、思いついたらそれに録ってね。昔だったら、出先で思いつたら公衆電話から自分の家に電話して留守電に入れるとかしてました(笑)。電話口で鼻歌を歌ってるから、隣のおじさんにヘンな顔で見られながら(笑)。そんな感じなので、楽器を持つと作れないんです。ただ、今は、そこからマックを使って打ち込んだりしてるから進化はしてます(笑)。
——今回のデモをメンバーに送った時の反応はどうでした?
BAN
:Eizo君には“今までにないタイプの曲だね”みたいなことを言ってもらえたし、KENTARO君も「LOVERS〜Stay in my arms」を送った時にSNSで“切なくていい曲”って書いてくれてたり、そういうのがうれしかったんですよ。
——各メンバーの演奏を聴いて、予想を上回ってると感じたことはありますか?
BAN
:全部それですね。今回、アルバムに入らない楽曲があるんですけど、それをリハーサルで合わせた時、“おお、すげえ!”って思ったんです。それから、毎回、自分の想像を遥かに超えるものを返してくれるので、やっていてすごく楽しいです。レコーディングしていても、僕から注文することはほとんどないんですよ。
「STRONG AND TOUGH 」なんかは、ライヴでやっていないからどんなふうに仕上がるのかと思っていて録ったものを送ってもらうんですけど、“すっげえ!”ってなるんです。こんなプレイは、ぜったい自分では考えつかないというのをやってくれる。
——「IS THIS LOVE?」は、作詞もBANさんですね。
BAN
:あの曲は、メロディを書いてる時に歌詞が思い浮かんだというか乗ってきたんです。サビの歌詞が降りてきて、それがメロになっていて。これまで、メロを考えていて歌詞が浮かぶというのはあまりなかったんですね。だいたい、英語のハナモゲラで歌っていたし……グランド・スラムの「「KEEP ON DANCIN’」ぐらいかな、一緒に出てきたのは。それが、「IS THIS LOVE?」の時は、ところどころメロディに乗ってる日本語が出てきてそれをメモっていて。で、『ムーラン・ルージュ』という映画があるんですけど、それを観たら歌詞が書き上げられたんですよ。
——では、BANさん自身のベース・プレイはどうですか? あいかわらず存在感あるプレイですが。
BAN
:ありがとうございます(笑)。もう長年やってるんでね、吉川裕規は吉川裕規でしかないんで“自分はこうだろう”みたいな感じで弾いてるだけですよ。ただ、A-Joeからドラムのデータが来たら、スタジオに入ってアンプを鳴らしてレコーディングしてるんです。最近はデジタルものもすごく便利だけど、やっぱりスピーカーから揺れて出す音の空気感みたいな、あれが欲しいんです。アンプを鳴らしたいんですよね。家でアンペグを鳴らすことはできないんで(笑)、レコーディング・スタジオに入って録ってますよ。そこはこだわってますね。
——いいですね! だから、こういう音に仕上がるんですよね。楽曲もそうですが、あえて現代に寄せた方向性を取ってないのもアンチェインドの魅力かと。
BAN
:最初から時代を見据えてやると偏ってしまうような気もするんです。そうするとおもしろくないなって。それよりも長く続けられたらいいし、10年後でもできる曲であったらいいなと思うんですね。さっき言っていた歌謡曲もそうですし、昔の曲で、今、聴いても名曲っていっぱいあるじゃないですか。ビートルズもそうだし、そういう曲が作れたらいいなと思ってるんです。
——完成したアルバムを聴いて、どんな作品になったと思いますか。
BAN
:ヘヴィ・メタルなアルバムではないと思うんですよ。それよりもロック・アルバムという感じに仕上がってるかなと。自分達がやってる音楽が、どういうふうに受け取られるのかはわからないじゃないですか。“こんなのはロックじゃない”という人もいるかもしれない。100人に聴いてもらって100人ともいいというのってぜったいにないと思うんです。必ず賛否両論、出てくるだろうけど,“これが今のアンチェインドです”って胸張って言える仕上がりにはなってます。
この4人で作ってる今の音が、これなんです。聴いてみてよくないと思うのはその人の感覚なので仕方ないですけど、一度、聴いてみてほしいですね。僕が曲を発信していますが、他の3人がキッカケを大きくしてくれて、デモから化学反応を起こして10倍以上にしてくれてますから。
——それこそ、“バンド”ですしね。
BAN
:バンドを始めた頃って、スタジオに入って音を合わせた時に、たとえヘタクソでも楽しかったじゃないですか。アンチェインドにはそれがあるんです。ヘタクソではないですよ(笑)、でも、ワクワク感みたいなものがすごくあるんですよね。

レコーディングで使用されたフェルナンデス:BSB LED、BANのシグネイチャー・モデルだ。“スルーネック仕様で24フレット。ピック弾きでもきっちりローが出て輪郭がハッキリしているところが気に入ってます”(BAN)。

▲ライヴ用のエフェクト・ボード。EDEN WTDI(プリアンプ)やZOOM MSー60B(ベース用マルチ・エフェクター)、BOOTーLEGのHOLY ANGEL HAGー1.0(BANシグネイチャー・トーン・シフター)、コンプとしてではなくドライヴ用に使用しているベリンガー CL9などが搭載されている


KENTARO〈guitar〉
アンチェインドをやることで
自分のフィールドが広くなった

——現在、KENTAROさん自身、いろいろなバンドに参加していますが、アンチェインドでのギター・アプローチをどう捉えてますか?
KENTARO
:僕の今までやってきたギターとは違う系統の音にしてるんですね。いろいろ模索中ではあるんですが、いちばんベーシックな音はシングルコイルのピックアップで作ってます。曲によってはハムバッカーのギターで、これまでのような“KENTAROサウンド!”を出していたりするんですが、アンチェインドでは新たにベーシックな音を作りたいと思っていて、前のアルバムからチャレンジしています。
——それは、楽曲に合わせて?
KENTARO
:そうですね。自分が今まで出してきた音というのは、ハード・ロックやヘヴィ・メタルのバンドでは合致してたんですが、その音だけだと曲によっては雰囲気的に合わないと感じたんです。BANさんが作る曲にこれまでの自分の音を当ててみると、何かしっくり来なかったんですよ。“自分のギター・サウンドはこれです!”って感じで今までやってきたけど、このバンドでは一度、自慢の音を取っ払ってみて(笑)、新たに構築していってみようと思ったんです。それが自分にとって刺激的だし楽しめたので……いろいろ試してるうちにシングルコイルのギターがしっくりきて。今までも使ったりはしてたけど、メインで使うってことはなかったので。
——それは前作が出る前のライヴをやっているうちに感じていたことですか?
KENTARO
:ライヴをする前にギター・アレンジとかしてる段階でその方向性は見えたので最初のライヴの前から音作りは変えてました。ベーシックなバッキングの音が3つあって、ひとつは今までどおりのハムバッキングの音、ひとつはアンチェインドをやり始めてから作ったシングルコイルの色が強く出た音、もうひとつはクリーンに近くてあまり歪んでない音。曲によって、ベーシックな音を変えていってます。それを基本にアルバムでも、いろいろとギターだったり音を変えてますね。
——前半の「STRONG AND TOUGH」や「NEXT SIGN」のリフは、いわゆるメタリックなサウンドですね?
KENTARO
:あれは、微妙には違うんですけど、基本的にはこれまでのハムバッカーを使ったKENTAROサウンドに近い音で弾いてます。ただ、全体的には、シングルコイルを使ったクランチ・サウンドがメインになってます。コードのカッティングが多いので、あまりメタリックな歪んだ音だと歯切れが悪くなったり強すぎるんですよね。今回、いろんなギターを使ってるんですが、P-90が載ったゼマイティスのVをメインに使ってます。
——ちなみに、アンプは鳴らしてないんですか?
KENTARO
:ライヴでも使ってるアンペロ(マルチ・エフェクター)のシミュレーターを使ってます。レコーディングでもぜんぜん問題ないし、いい感じなんですよ。その中に入ってる、フリードマン、ボグナー、マーシャルなどのアンプ・シミュレーターを使って、そのままレコーディングしています。
前はドライ音を録ってリアンプをしたりしていたんですけど、やっぱり最終的な音をモニタリングしながらプレイしたいんですね。ミュートの加減とか細かいニュアンスをその音に合わせて調整しながら弾くので、あとでリアンプするとなるとそういうニュアンスを無視したプレイになってしまうじゃないですか。ある程度、近い音でモニタリングして弾いても、やっぱり少し違うなと思って、アンペロだったらリアンプしなくてもいける音だったし、潔くそのままレコーディングしてしまおうと。基本的に、ライヴでやっていた雰囲気をアルバムでも表現したかったので、ライヴの時のセッティングを曲に合わせて微調整した感じです。
——デモで来るギターに関しては、どこまでアレンジするんですか
KENTARO
:ギターも、そのまま出してもいいんじゃないかというクオリティで入ってるんですよ。そこから、リフの合間にフレーズを足したりしますが、無理には変えたりしてないです。ちょっとここは隙間を作ったほうがいい、ここは埋めたほうがいいということがあるぐらいですね。ガラっと変えることはないですよ。
——ギター・ソロに関しては? けっこう弾きまくってますよね。
KENTARO
:ですね。コード進行は決まっていたので、それに合わせて弾いたら、いつも通りになっちゃったみたいな(笑)。BANさんからの指定はないですし、むしろ“好きなように弾きまくって”ぐらいの感じで言われてます。
——「IS THIS LOVE?」にいたっては、タッピングもあったり曲調の想像を上回って弾いてますよね?
KENTARO
:最初期のライヴはアドリブで弾いてたんですけど、それが何度か演ってるうちに自然とフレーズが決まっていった感じです。今回の曲はライヴでやっていた曲が多いので、大まかな流れとしてはライヴ・レコーディングしているぐらいな気持ちで録ってますね。作り込むというよりは今日はこういう気分だからこうしてみましたみたいな「シェフの気まぐれサラダ」的なギターです(笑)。
今、ダイダ・ライダ、リヴ・ムーンとか音数の多いバンドをやっていて、その反動があるのかもしれないです(笑)。この時代に、これだけシンプルな音でやるのも新鮮だと思うし、音数が少ないぶんひとりひとりのプレイが伝わりやすいと思うんです。細かいニュアンスもそうですし、目の前で弾いてる感じに聴こえたり弾いてる姿がイメージしやすいんじゃないかと。
——「HOLY LONELY MAN」では、ロカビリー的なプレイも聴けますね。
KENTARO
:聴いていて懐かしい感じですよね。それこそ、こういう曲だとメタルなギター・サウンドだと合わないし、コードのカッティングを気持ちよく聴かせられたらいいなって思いました。アンチェインドの曲は、いろいろなギターの音だったりプレイができる隙間があるんですね。ギターの歪み加減で曲のイメージも、すごい変わるんですよ。それが、やっぱり4人だけの音だからなんですね。ゲインを落とせば歯切れのいい感じになるし、その逆もある。自分の持ってるフィールドが広くなってる。まだまだやれる余地があるので、いろいろ試してみてます。
——ただ、詰め込みすぎるのも違うと?
KENTARO
:ガツンと聴かせてノックアウトさせてやるみたいな攻撃的な意気込みというよりは、メンバーおのおのがいろんな経験をしてきたベテランなので自分のエゴを超越したところにいて、それぞれが自分のプレイよりトータル面に着目してるというのをミックス作業のやり取りで感じました(笑)。とくにBANさんからは“このギターからもっと上げていい?”みたいなことが毎日のようにあって恐縮でした。エンジニアさんを含めたレコーディング用のLINEグループでやり取りしてたんですけど、お互いを尊重し合ったトラックダウン作業で、これを公にしたら“こんな平和的なロック・バンドって実在するのか!?”って、みんな思うんじゃないかな(笑)?
——これまでのKENTAROさんの引き出しにはないプレイも聴けますね。
KENTARO
:今、アンチェインドでのギターのカッティングが、やっていてすごく新鮮で楽しいんです。リズムにしても、これまでは重たいものや刻みに重きを置いてずっとやってきましたけど、それとは違うアプローチもしてるので、そこも聴いてもらえるとうれしいです。まあ、ギター・ソロとかは、いつも通りの、よくも悪くも僕でしかないところはあるかもですが(笑)、今までと同様に速弾きするにしても口ずさみたくなるようなフレーズを心掛けてます。意識して新たなことをやってるのは、クランチであったり、そういうギター・サウンド面ですね。
——アルバム的にはどうですか?
KENTARO
:いろんなタイプの曲があって、どの曲もキャッチーだと思うんです。BANさんの作る曲は、知らないあいだに口ずさんでいたり、そういうパワーがあるんです。今時の音楽ではないかもしれないですが、メンバーのもともとのファンの方ならどこか懐かしさを感じて聴ける部分もあると思うし(笑)、普遍的なよさがあると思うのでいろんな人に聴いてもらいたいですね。

▲ゼマイティスV(写真左)=“もともとEMGを載せていたが昨年からP-90タイプのピックアップに換装して使用してます。アンチェインドでのメインです”(KENTARO)。
3シングルV(写真右)=“自作のVです。ピックアップはディマジオのポール・ギルバート・モデルでパンチのある音が気に入ってます”(KENTARO)。

グレコ/ゼマイティス GZ(写真左)=“最初期のモデルのプロトタイプ”(KENTARO)。
グレコ TEタイプ(写真右)=“仕様がわかりません(笑)。自作の3シングルのVとネック交換中”(KENTARO)。

グレコ/ゼマイティス GZA(写真左)=“やや小さめのボディで張りのある音がします”(KENTARO)。
ゼマイティス 12弦(写真中央)=“今回のレコーディング用にレンタルしたもの”(KENTARO)。
マーチン(写真右)=“型番が分からないのですが、アコギのRECではよく使っています”(KENTARO)。


A-Joe〈drums〉
アンチェインドは
独自のロックを目指している

——豪華なメンバーのアンチェインドですが、2枚目となるとレコーディングへの意気込みも違ってきましたか?
A-Joe
:やっぱりこのメンバーで作るアルバムの土台となる部分なので緊張はしましたけど、前回のアルバムよりはだいぶリラックスして楽しみながら叩くことができました。エンジニアさんとも2回目でしたし、今回はKENTAROさんにガイド・ギターを用意してもらったのでありがたかったんですよ。ガイドが入ってることで曲がどんな感じなのかもわかるじゃないですか。前作の時はクリックだけに合わせて、自分の頭の中の想像だけで叩いてましたから。そういう部分でも、今回は助かりました。録り前にBANさんからも“楽しんで来て〜”ってLINEも来ましたし(笑)。
——これまで、クラウド・ナインやディアブロ・グランではヘヴィ・メタルを叩いてきて、アンチェインドに合わせて自分のプレイ・スタイルを変えようと思いましたか?
A-Joe
:自分自身は変わらないというか、出音自体は変わりませんからね。たしかにハード・ロック/ヘヴィ・メタル寄りではないんですけど、気持ちいいリズムを叩くという基本的な部分は変わらないです。曲を楽しみながら叩ければと思ってたし、気にかけたことは一音一音丁寧に鳴らすことですかね。気持ちのいいキックやスネアのタイミングを意識しつつ、BANさんの作り出す世界観や、歌のメロディを大事に、そしてこの4人で出せるシンプルかつメロディアスで聴きやすく、やる側も聴く側も楽しめる楽曲を意識して叩いています。
——デモでは、どの程度のドラムが入ってるんですか?
A-Joe
:歌もギターもベースも入っていて、ドラムも打ち込みで入ってるんですね。それを自分なりの解釈でプレイするという感じです。そんなに変えることはないんですけど、まあ、曲によりますよね。「ILLUSION OR TRUTH」は、頭がふつうの8ビートだったんですけど、ちょっと縦な感じにするのもおもしろいかと思って頭打ちに変えてます。デモを聴いた時のイメージだったんですけど、前半は縦ノリで叩いて後半を横ノリなイメージで叩きたいと思ったんですね。
まあ、今回のレコーディングは、基本的にはバンド結成当時からやっている曲とか、ツアーを回ってバンドの楽曲としてある程度仕上がったものがほとんどだったので、スムーズに録ることができたと思います。とはいえ、出来上がった楽曲にも新しい発見や感動があったりして、バンド同様に楽曲自体もどんどん進化してるんだなとは感じました。
——アレンジしてBANさんからNGになることは……。
A-Joe
:ほぼほぼないですね。BANさんも、曲に関して、みんなにいろいろ意見を言ってもらいたいみたいなんです。
——レコーディング時は、他のメンバーがいないんですよね? とすると苦労もあるかと思うんですが。
A-Joe
:ちょっと難しかったのは新曲の2曲ですね。BANさんから送られてきたデモを、僕の一方的な理解と解釈で叩いたんですよ。どうなるかと思ったら、BANさんは安定のベースで土台を固めてくれて、KENTAROさんは鮮やかなギターで彩りを添えてくれ、Eizoさんがメロディアスな歌と歌詞で表情豊かにしてくれて。出来上がりを聴いた時はとても感動したし、改めてみんなすごいプレイヤーなんだなと実感しました。
——レコーディングしてみて、改めてすごいメンバーとバンドをやってることを実感したと?
A-Joe
:BANさんのベースは僕がエキサイトして走ろうとヨレようとピッタリ張り付いてくれて、みんなを見守ってくれるような安心感のあるイメージなんですね。KENTAROさんは、とにかく華やかですよね。ステージングもプレイも。オブリなんかもビックリするようなものが入ってくるので、いつも楽しみです。Eizoさんは、歌唱力もさることながら、すごい存在感だと思います。ステージの真ん中に“ドン!”と柱が一本立ってるんですよ。
——BANさんが札幌在住というのもあり、レコーディングにおいてもライヴがプリプロみたいなものらしいですよね?
A-Joe
:ほぼほぼそうですね。前日にリハーサルする時もありますけど、サウンド・チェックで初めて合わせてそのまま本番の時もあるぐらいで(笑)。たとえば、リハーサルの時にBANさんとタイミングが合ってないなって思うこともあるんですよ。ただ、細かく詰める時間がないからそのまま本番をやるんですけど、そこで“こう弾いてるのか!?”って解釈が違うことを理解して自分が思ってることの誤差を次までに修正するんです。だから、最初のほうのライヴはドキドキで怖いです(笑)。
——とすると、レコーディング時にまだ理解してないパターンもあったりするのでは?
A-Joe
:軸となるのは、BANさんのデモなんですね。あとは、ライヴをやりながらEizoさんの歌い回しなども聴いてレコーディングに臨む感じです。だからこそライヴでやってなかった新曲2曲はたいへんだったんです。その2曲は歌詞ができる前にドラムを録らなきゃいけないわけで。
——歌詞を意識してドラムを叩いてたりもするんですね。
A-Joe
:バラードとかはけっこうそうですね。バラードではないですが、「DESTINY IS MINE 」とかけっこう歌詞が好きなんですよ。
——他にも好きな曲といえば?
A-Joe
:基本的にはどの曲もオススメなんですが、やはりアルバム・タイトルでもある「ILLUSION OR TRUTH」ですかね。幻想的なギターから始まって、攻撃的なイントロ、歌詞の世界観、そして広がりのあるサビが、とてもスリリングで聴き応えのある曲に仕上がっています。けっこうバラード系も好きで、「 LOVERS〜」は壮大でドラマチックな仕上がりになっています。「DESTINY IS MINE」は、ライヴでみんなで歌えるようなキャッチーで覚えやすいメロディで、さっきも言いましたが歌詞も好きで、とても印象的でつい口づさんでしまいたくなるような詞ですよね。
——A-Joeさん的に、アンチェインドの方向性もかなり身体に馴染んできた感じですか?
A-Joe
:“こうだ!”という感じは、いまだになくて、思ってなかったようなアプローチをしてくる曲もあるんですよ。
「LABYRINTH」なんか、とくにそう感じましたし。すでに、新しい曲が送られてきてるんですけど、それもまたぜんぜん違う感じで“こういう方向にも行くつもりなんだ”って(笑)。その時、その時にあったギターだったり歌だったりをメンバーが付けていくので、それに負けないようにというか置いていかれないように付いていくのに必死です。その幅広さがアンチェインドだし、みんなホントに素晴らしいプレイヤーで、この中に混ざって一緒に作品を作れることがとても幸せなんですよね。
——ただ、最初に言っていたように、これまでの自分のスタイルを崩そうとは思ってない?
A-Joe
:けっきょく、自分ならではのプレイになっちゃうんですよね。ロックあがりのクセが出ちゃうというか。でも、BANさんもそれでアンチェインドらしさが出てくるのが楽しいって話をしてくれますし、自分らしくていいのかなって思ってます。もちろん手グセだったり自分のスタイルがあるんですけど、BANさんの持ってくる曲の世界観だったり空気感は意識して、“これはいらない。こっちのほうがいいかな”と考えたりはしますよ。「 LOVERS〜」では、だいぶ音数を減らして叩いたりしてるんですね。あまりドカドカやって、Eizoさんの歌をジャマするのはよくないじゃないですか。それに、ハードな曲でも、あまり2バスを連打したりメタルっぽいドラムを叩くのがカッコいいのかなって思う部分もあるんです。アンチェインドでは、あまりそうしたくはないなというのが少しありますね。
——WeROCK読者も、このメンバーからイメージするのは、ハードな楽曲だったりすると思うんですね。アンチェインドは、それだけではないと。
A-Joe
:もともとグランド・スラムのスタッフをしていたので、最初はアメリカンなハード・ロックで行くのかと思ってたんですよ。でも、それはそれで、アンチェインドは新しいバンドで独自のロックを目指しているって感じていますけどね。
——フル・アルバムが完成してどう思っています?
A-Joe
:自分が予想していたよりも格段によくなってますね。どの楽曲もとても素晴らしい仕上がりになっているし、メンバー、スタッフみんなで作り上げた力作ができたと思ってます。ライヴに足を運んで頂いて、バンドの進化、楽曲の進化を体感してほしいですね。

▲レコーディング時のドラム・セット。基本的にレコーディング・スタジオに常設されたセットをA-Joe流のセッティングにして録音したとのこと


アルバム『Illusion Or Truth
¥3,000(税込) 2025年6月10日
①STRONG AND TOUGH
②NEXT SIGN
③DESTINY IS MINE
④IS THIS LOVE?
⑤ILLUSION OR TRUTH
⑥愛ゆえ
⑦LOVERS〜Stay in my arms
⑧LABYRINTH
⑨HOLY LONELY MAN
⑩PRECIOUS NIGHT

■アンチェインド ライヴ日程■
9月12日(金)=札幌ホットタイム(前夜祭)
9月13日(土) & 14日(日)=札幌ジッピーホール

■アンチェインド 公式サイト■
https://unchained.jp/