360 Reality AudioでANTHEMを聴く

ソニーが開発した360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)という時代の最先端を行く音楽体験。
アンセムの最新アルバム『CRIMSON & JET BLACK』がこの360 Reality Audioで配信されている。
通常の音源といったい何が違うのか!? 柴田直人自身に、その進化を聞くとともに、どんな音楽体験なのか迫ってみた。


■360 Reality Audioとは!?

下の図を見てもらえればわかりやすいだろう。
ステレオ再生(左上)、サラウンド(左中)、3Dサラウンド(左下)、360RA(右)というイメージだ。
360RAは、上からも下からも含む、全方位から音が聴こえてくる感覚の音楽体験になっている。これを、通常のヘッドホンで体感することが可能なのだ。

■360 Reality Audioの聴き方

アルバム『CRIMSON & JET BLACK』を360RAで聴くためには、Amazon Music Unlimitedに登録する必要がある(サブスクで有料となります)。
登録は、スマホのアプリ“Amazon Music”をダウンロードし、アプリ内から行なう。
登録が完了し、『CRIMSON & JET BLACK』を検索すると写真①の赤丸のように“360”という表示が出る。
このままでは、通常ミックス・ヴァージョンなので右下の“…”をクリックして写真②の画面に進む。
そうすると◯の部分で“オーディオ品質”という項目があるので、ここをクリック。
写真③の画面に進み、下部に“ステレオ”か“360”かの選択項目が出てくる。ここで“360”をクリックすると、360RAの世界に突入できる(写真④)!

【『CRIMSON & JET BLACK』=収録曲】
①SNAKE EYES②WHEELS OF FIRE③HOWLING DAYS④ROARING VORTEX⑤BLOOD BROTHERS⑥MASTER OF DISASTER⑦VOID ARK⑧FASTER⑨BURN DOWN THE WALL⑩MYSTIC ECHOES⑪DANGER FLIGHT


■僕の中でこれは新しい『CRIMSON & JET BLACK』なんだ(柴田直人)

——もともと360 Reality Audio(以下360RA)はご存知でしたか?
柴田
:くわしくは知らなかったんだ。ドルビー・アトモスとかと同じ感じかと思っていたんだけど、それとはまた違うみたいだしね。で、最初はライヴ映像で作品を作るという話だった。僕もそういうつもりでいたんだけど、でも、どうせやるならライヴではなくてスタジオ録音盤でやりたいと思ってね。
今回のお話を頂いて、ソニーの360RAが聴けるスタジオに行っていろいろと試聴してみると、たしかにライヴだったら臨場感もたっぷりになるしすごくなるんだけど、それでは当たり前だと思ったんだ。そこで、いろいろとスタジオ録音の音源を聴かせてもらったんだけど、そのなかにはヘヴィ・メタルがひとつもなかった。いわゆるロックの中でもヘヴィ・メタルって音数が圧倒的に多いしスピードも速いから、それを360RAにすることに興味が湧いてきてしまってね。スタジオ録音盤はただでさえ各楽器の分離がいいわけで、それをさらに球体のあちこちに配置してモニターできたらぜったいにおもしろいだろうなって思った。プロジェクトの担当の方は、ホントはライヴでやりたかったのかもしれないんだけど、“アーティストの意見を尊重しますので、それではアルバムの完成をお待ちしております”と言ってくれたんだ。
——最初に360RAを体験した時、どんな印象でした?
柴田
:そのスタジオでライヴ映像の360RAで体験したんだけど、それはそれはすごかったよ。まわりにお客さんがいる感じもすれば、ステージの音が壁や天井に跳ね返って自分のところに降ってきてる感じもあった。ただ、それは、想像どおりのすごさだった。ところが、デヴィッド・ボウイの360RAでリミックスされたスタジオ盤音源を聴いたら、想像を超えていたんだよ。斜め下から音が移動するし、頭の上をくるくる回ってたり、それを聴いてしまったのでどうしてもスタジオ盤で、さらに『CRIMSON & JET BLACK』のエンジニアであったイェンス(・ボグレン)とともにやりたかった。イェンスも360RAのことは知らないし、もちろんそれ用のミックスもやったことがなかったから、まずはこのシステムを理解してもらってOKしてもらってね。そこから、ソニーのスタッフにイェンスを紹介して、技術的なことは僕にはわからないことなので、まずはソニーとイェンスに任せて作っていってもらって。そのあと、1〜2ヵ月後だったかな、仕上がったという連絡がイェンスから来て、“すごく興味深い仕事だった”と。“たしかに、他にはない技術”だって言ってた。
——ところが、いつものとおり、リーダーは納得いかなかった(笑)?
柴田
:いやいや、それはそれで素晴らしい仕事だったんだよ。ただ、イェンスがミックスしたスタジオは、ソニーの13個のスピーカーが設置されたようなスタジオとは違うでしょ。通常のステレオでのスピーカーでミックスをするわけ。で、彼のほうから、“仕上げた音をヘッドホンで聴いてみたら、なにかが違ってしまうんだ”と。“どうしてなのかはかわからないけど、とても奇妙なことだ”って言ってきたの。
イェンス的にはメタルを360RAで再現するには、あまり音が動きすぎるのもどうかということで、ちょうどいいと思える、いわゆる音の動きなどは抑え気味のミックスにしたとも言っていて。で、完成したミックスを僕がソニーのスタジオで聴いて、最初の印象は“お〜!”って思ったよ。ギターがすぐ横にあったり、ギター・ソロもクルクル回ったりしてたからね。ただ僕は、もう少しわかりやすく360RAにする意味を音にしたいと思ったの。そこで、このミックスを元に、ソニーのエンジニアの方と僕で、さらに360RA用のミックスを追求して作らせてくれないかと。要するに“イェンス+柴田直人ミックス”を作らせてもらえないだろうかという話をソニー側にさせて頂いた。そこから、1ヵ月半ぐらいスタジオに通って少しずつミックスしたんだ。
——本物のアルバム以上に時間がかかってますね!?
柴田
:まず1曲だけ普通にスピーカーで聴きながら完成させてそれをヘッドホンで聴いたら、イェンスが言ったとおり印象が違った。なにが原因かはわからないけど、誰もがあのソニーのスタジオのシステムで聴けるわけではないから、それまでやったことをいったんなしにして、全部、ヘッドホンだけでモニターしながらミックスさせてくれないかとお願いしてね。それで、僕がヘッドホンで聴いて、どこに各楽器を配置して、どう動かすかを指示するので、そのとおりにミックスしてもらうやり方に変更したんだ。全曲が完成するまでは、360RA用のスタジオのスピーカーではいっさい聴かないと決めてね。
だって、ほとんどのリスナーは自分の持ってるイヤホンやヘッドホンで聴くわけでしょ。それで聴いておもしろいと思ってもらわないと意味がないから、初めてヘッドホンだけでミックスをやるという方式にチャレンジしたんだ。でも、狙い通り、このやり方でミックスすることに意義があった。
——360RA用に、各楽器の音を変更したりしましたか?
柴田
:イェンスが、多少、なにかをしているのかもしれないけど、僕には通常盤のままのトーンに聴こえるよ。日本で手を加えたのも各楽器の音質ではなく、居場所と動き方だけだったから。
——いちばん難しかった部分といえば?
柴田
:やっぱりついつい動かしすぎちゃうんだよね。でも、メタルってスピードも速いし音数も多いから、いろんなものを動かしすぎると気持ちよくないんだ。わかりやすく言うと、聴く人が球体のスタジオの真ん中にいて演奏を聴いているんだけど、その音が、時々、右に行ったり上に行ったり下に行ったりする感じかな。
基本は、バス・ドラムが斜め下にいて、ベースも真ん中より下にいる。ギターはLRなんだけど、オーヴァー・ダビングされた音は後ろだったり斜め前だったりして、時々、リード・ギターが動いたりするんだ。
——通常盤と、かなり変わりますよね。
柴田
:通常盤よりも各楽器の分離がすごくよくなってる。不思議だと思ったのは、たとえばギターのオブリガートを左下のほうに配置してほしいとリクエストしたら、どんどんハイがなくなっていったの。離れていくと聴こえる音は変わっていくんだよね。それが、コンピューター上で計算されて配置されるわけ。で、セパレーションがよくなってくると分離がいいから全体的な中域がスッキリとして聴こえてくる。で、やってる時は気づかなかったんだけど、今、聴くとすごくドラムが生々しいしシンセの音が重厚感あるトーンになってる。
——通常盤では聴こえてこなかった音が、いっぱい聴こえてきますよね
柴田
:清水が“俺、こんなにいっぱいギター入れてましたっけ?”って言ってた(笑)。
——おもしろいのは、通常盤よりいいとかではなく、どちらのよさもあるんですよ。聴いてもらって、“やっぱり通常盤のほうが好き”という人もいれば“これからも360RA版をやってほしい”と思う人もいるかもしれないですね?
柴田
:そうそう、だから僕の中では、これは“新しい『CRIMSON & JET BLACK』”なんだ。従兄弟というかさ、同じ血を持ちながら性格が違う感じ。じつは、この作業が終わってしばらくの間は、360RAヴァージョンのほうしか聴けなかったんだ。なんか通常盤だと物足りなかった。ところが時間がたつと、通常盤のステレオ・ヴァージョンもそれはそれでいいんだよね。塊感(かたまりかん)がいい。
次、いつアルバムを作るかわからないけど(笑)、これは次の作品でも作りたいって思ったもん。こないだのメンバー・ミーティングでは、“次のアルバムは最初に360RA版を出す?”みたいな話も出るぐらいだった。そういう未来が来てもおかしくない時代になってきたよね。

■新たな発見も多いと思います(清水昭男)

まず驚いたのは定位の広さです。本当にさまざまな方向から音が届いて、スタジオ盤でありながら、ものすごく豪華な編成のライヴを生で聴いているような感じです。お手持ちのどんなヘッドホンでも体感できるという点もすごいなと思いました。
音源との距離感を立体的に感じられるので、360RAによって生まれ変わったアルバムを先入観なく楽しんでほしいですね。オリジナルでは確認しづらかった音もたくさんあるし、さらに踏み込んで聴くことで新たな発見も多いと思います。そのうえで僕らが刻み込んだアルバムへの熱い思いをまた新たに感じてもらえたらとてもうれしいです。


■360RAの迫力を編集部員も体感してみた

Amazon Music Unlimitedに登録すると、おもしろいことに360RAと通常のミックス両方を聴き比べることができる!
聴き比べると、まず全体の音質がまったく違うことに気づく。ミッド・レンジが豊かな通常ミックスに比べて、360RAはミッドを抑えめにして各楽器の分離がよくなって聴こえてくる。とくにドラムのタム類の分離がよく、フィルがわかりやすく耳に届いてくれる。全体的にも、眼の前で演奏しているような臨場感もあり、さらに「SNAKE EYES」のギター・ソロなどでは、通常ヴァージョンにはなかった頭を駆け巡るようなパンニングなど新たな発見も楽しむことができる。有料のサブスクという方式になってしまうが、アンセムだけではなく多くのヘヴィ・メタル・バンドの通常音源や360RAヴァージョンも聴くことができ、時代はこういう方式に進化していることを実感させられました(汗)。


■ソニーの最新ヘッドホンをリーダーが試す!

今回の企画の締めとして、リーダー柴田直人にソニーの世界最高ノイキャンで高音質なヘッドホン、WH-1000XM5とWF-1000XM5を試してもらった。本人も愛用しているという、この2モデル。
ミュージシャンも納得の音が再生されるのだろうか!?

柴田:いわゆるスタジオのミックス時などに使うフラットな音質のヘッドホンより、僕のイメージとしては、音が柔らかくてふくよかだね。ハイがキツすぎないから耳に痛くないし、いい音で再生してくれる。
例えるなら、昔、すごく高いステレオで音楽を聴いた時のような感じというか(笑)。ガチガチのメタルを聴いたらそのまま再生してくれるんだけど、すごく尖った音の向こう側にミッド・レンジやローがふくよかなんだよ。どこか一部分が突出してるわけではなく、バランスが抜群にいい。遮断性もすごくて、慣れないと外の音が聴こえなくなるから焦ります(笑)。
WH-1000XM5のほうはジャマにならないフィット感があるね。WF-1000XM5は音の方向性は同じなんだけど、イヤホン・タイプなので音の解像度が劇的に高い。ふだんランニングをする時などは、こちらを使ってます。

WH-1000XM5
¥オープン

WF-1000XM5
¥オープン

■360 REALITY AUDIOの詳細■
https://www.sony.jp/headphone/special/360_Reality_Audio/


CRIMSON & JET BLACK』
ワードレコーズ
GQCS-91280 3,300円(税込)

◎オリジナル・アルバムとしては約6年ぶりとなる(2023年4月リリース)、アンセムの最新作。初期を思わせるストレートな楽曲には、ヘヴィ・メタルに対するこだわりが随所に垣間見られる。敏腕エンジニアであるイェンス・ボグレンがミックスを担当し、さらにメタリックな仕上がりになっている。