サーベル・タイガー、『INVASION』完全再現ライヴをレポート!

9月10日にファースト・アルバム『INVASION』(1992年発表)、9月11日に『BRAIN DRAIN』(1998年発表)の完全再現ライヴを、当時のレコーディング・メンバーとともに行なったサーベル・タイガー。
このスペシャルなライヴは、チケットが発売と同時に完売し、涙したファンも多くいたと耳にする。その2日間のライヴ、まずは9月10日に開催された『INVASION』DAYのレポートをお届けしよう。


■9月10日=『INVASION』完全再現ライヴ
初日の『INVASION』完全再現ライヴは、残念ながら飯山明寛(ds)が体調不良となり当日プレイできない状況となってしまい、現メンバーの水野泰宏(ds)を迎えての開催となった。飯山もかなり楽しみにしていたということで、無念とは思うがまずは体調の回復を願うばかりだ。
会場のスクリーンには『INVASION』リリース前後と思しきライヴ映像が流され、ファンの目を楽しませている。『INVASION』期の楽曲だけでなく、ビリー・ジョエルの「オネスティ」、ゲイリー・ムーアの「パリの散歩道」から驚きの『ドラゴンボールZ』の主題歌「CHA-LA HEAD-CHA-LA」まで飛び出す。最初は普通に観ていた来場者も次第にテンションが高くなっていった様子で、通常のライヴと同じように曲が終わりごとに拍手が起こり、開演時間が迫ってくるとそれが徐々に大きくなっていく。
Machine Gun」~「Break Down」と初期の名曲メドレーの途中で場内暗転と同時にスクリーンには『INVASION』のアートワークが映し出される。場内には美しく高揚感あるインスト曲「Rise」が流れ、ライトで真っ赤に染まったステージはメンバーの登場を待つ。
田中“MACHINE”康治(g)と水野がまずステージに登場、山住 隆(b)、そして御大の木下昭仁(g)がそれに続く。最後に勢いよくステージに登場した久保田陽子(vo)の「今日は特別な夜にしようぜ!」という声を合図にライトで眩しいステージから「Storm In The Sand」のメロディが流れる。艶のある声による圧倒的な表現力、流れるエモーション、分厚いリズム隊、リリース時のサーベル・タイガーがなぜこういった聴かせるタイプの曲を『INVASION』のトップに持ってきたのかをジックリと味わい、感動している。そして、それはいくつも上げられた拳も証明している。
久保田が曲の終わりに人差し指を高く突き上げると流れるように「Light-Thunder-Light」のメロディが走り出す。クールな表情の木下と激しく首を横に振る田中のアックスマン・チームの至高のコンビネーションも素晴らしく、拳を突き上げ激しく首を振るファンも多い。 

MCでは満面の笑顔で久保田が30年前のアルバム再現を奇跡と告げる。
頭の2曲ですでに感極まって目頭に指を何度も当てているファンもいたが、そんなファンにもらい泣きするからと優しく声をかける久保田。
久保田がサーベル・タイガー加入の切っ掛けとなった曲と告げて始まったのは「Nasty Heart」。メジャー感のあるミドル・テンポのこの曲が会場を揺らす。余韻を引きずるようなエンディングから「Back To The Wall」の哀愁をたたえたイントロへと続く。「Misery」という屈指の名バラードに隠れた感もあるが、もっと注目されるべき名曲で、悲しみを優しく包み込むメロディが感情を少しずつ剥き出しにしていく。泣きのツイン・ギター、その最後の一音に空間に溶け込み消えていくのと反比例して大きくなっていく場内の拍手。間違いなくこの日の名演、名場面のひとつであろう。
今回の再現ライヴについて感謝の言葉を述べる久保田に続いて始まったのは、彼らの楽曲の中でヘヴィな部類の「Fate」。キュッと口を真一文字に結び、その表情がどこか大魔神を彷彿とさせる山住が大きく身体を揺らす。
「カモン、ブラスター!」と久保田のシャウトに続き水野がドラムを叩く。キャッチーなヘヴィネスと妖艶なメロディが入り組む「The Bluster」が ジワジワと場内の熱をさらに上げていく。少しトリッキー感あるソロでは先ほどまで真一文字に結んでいた山住の口元が少し緩んだようにも見えた。技巧派のサーベル・タイガーをタップリと堪能した「A Shot In The Dark」ではボトムを支える水野の手さばきにめが奪われる。「ショット!」の掛け声では場内のファンを射抜くような久保田のアクション……その前からファンはすでにハートは撃ち抜かれているが。

曲が終わると「どんなもんだい! 楽しんでるかい?」とシャウトする久保田。もちろん場内は大きな拍手で応える。そして『INVASION』をレコーディングしていた当時の思い出を語り、その思い出をそれぞれのメンバーに振っていく。当時からのファンはほっこりとその話を耳にしながら、それぞれが持つ当時の思い出を振り返っていただろう。
最後に久保田が「メッチャ力んで歌っていたのはこの曲かな?」との告白に続いて始まった「Under The Control」が場内の熱を再び高めていく。そのまま『INVASION』の中では明快なメロディでフックの強い「Liberate」が空間を支配していく。

曲が終わり、『INVASION』の最後を締めくくる“あの曲”についての思いを語る久保田。その言葉を一言でも逃さぬようにファンも静かに聞き入っている。そして日本ヘヴィ・メタル史上屈指の名バラードと言える「Misery」のメロディがスピーカーから零れ落ちる。
日本人ならではの独自の情感と抒情性、そして語感が生み出すリズム、そのどれもが見事に溶け合いこの空間の隅々まで染み込んでいく。もちろん、聴く者の心の奥底にもだ。後ろから観ていたのだが、感極まり静かに涙を流しているファンも多かったと思う。
素晴らしいパフォーマンス、そして久保田は深く一礼してマイクを後にステージを去っていく。映画のような一場面、それを見送るかのごとき素晴らしいギター・ソロが場内のファンの感情をたまらなく揺さぶっていく。

 アンコールを求める多くの拍手の中、再びメンバーがステージに姿を現わす。
ここまでですでに大満足というのに、まだ続くのかと思うと何と贅沢な一夜なのだろう。
さて、何をやるのか? シャウトする久保田の口から告げられた曲名はなんと「Tusk」! 山口洋徹がヴォーカル時代の名曲だ。攻撃的でありながら哀愁を忍ばせたこの曲はある意味、サーベル・タイガーの本質を表わしているかもしれない。それに続くは初期を代表する名バラードの「ある去りがたき心に」。いくつかヴァージョン違いがあるが久保田が歌うと女性ならではの艶めかしさが滲み出る。哀愁のタメを利かせた素晴らしい木下のギター・ソロにステージの久保田だけでなくフロアのファンも目を閉じその世界に深く入り込んでいる。
笑いあふれるMCの後は今のスタイルよりも80年代のジャパニーズ・メタル色が濃い「Night Stalker」へと続く。そして、「ラストはこれだ!」と久保田のシャウトとともに紡ぎだされたメロディはサーベル・タイガー初期の必殺ナンバー「Maboroshi」。場内のファンの握りしめる拳に入る力もさらに強くなったようだ。
“この身を焼き尽くす愛など夢”と歌詞にあるが、この瞬間は夢でなく現実、その瞬間を楽しむ喜びを噛みしめる。

ここでステージから再びメンバーは姿を消すが、まだ聴き足りないと場内の大きな拍手がメンバーを再びステージに引き戻す。久保田が思いを込めてと「Into My Brain」が披露され、重厚なメロディが空間を支配する。
何かの始まりを予感させるようなイントロが“この先のストーリー”を予感させる。久保田時代はまだこの「Into My Brain」が収録された『AGITATION』と『TIMYSTERY』が残っている。
ジックリとこの曲を聴きながら場内のファンもこの先を予感しているふうだ。終わりでなく、何かの始まりを予感させる楽曲で終わったこの夜。
現行サーベル・タイガーも楽しみだが、このサイド・ストーリー的サーベル・タイガーの動向も目が離せなくなってきた。

〈写真:笠井彰人/レポート:別府伸朗〉


SABER TIGER
『INVASION』完全再現ライヴ

2022年9月10日(土)=札幌ソリッド

セット・リスト
(1)Storm In The Sand
(2)Light-Thunder-Light
(3)Nasty Heart
(4)Back To The Wall
(5)Fate
(6)The Bluster
(7)A Shot In The Dark
(8)Under The Control
(9)Liberate
(10)Misery
Encore 1
(11)Tusk
(12)ある去りがたき心に
(13)Night Stalker
(14)Maboroshi
Encore 2
(15)Into My Brain


アルバム『PARAGRAPH Ⅴ』のライヴDVDのリリースに伴うツアーが決定している。

日程と会場は以下の通りだ。
2022年12月24日(土)=大阪・茨木ジャックライオン
2022年12月25日(日)=名古屋・柴田アヒル
2022年12月30日(金)=六本木バウハウス
2023年1月7日(土)=札幌キューブガーデン

そして、12月29日には川崎クラブチッタで開催されるイヴェント“Rock’n Roll Overdose in 川崎”に出演する。こちらの共演は、アースシェイカー、リアクション・アコースティック、ティルト、X-RAY Feat. KENTARO、スーパーブラッドだ。

サーベル・タイガー 公式サイト
http://www.sabertiger.net/